研究課題/領域番号 |
23241008
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
坂東 博 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80124353)
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研究分担者 |
定永 靖宗 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (70391109)
板野 泰之 大阪市立環境科学研究所, 調査研究課, 研究主任 (50332432)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 有機過硝酸エステル類 / 越境大気汚染 / 連続観測 / 窒素酸化物 / 成分分析 / キャビティ減衰位相シフト法二酸化窒素モニター / ガスクロマトグラフ-化学イオン化質量分析計 |
研究概要 |
H23年度に有機過硝酸エステル類(PANs)と有機硝酸エステル類(ANs)の分離観測に最適な熱分解温度に関する基礎検討を終えたことを受け、常温、150、および360℃の熱分解ラインをもち、交互に3ラインを切り替えることによりNO2、PANs、ANsを自動的に測り分ける熱分解-キャビティ減衰位相シフト分光法(TD-CAPS法)システムをH24年夏までに完成させた。 本システムを石川県能登半島突端の珠洲市にある金沢大学能登学舎内大気観測・能登スーパーサイト(NOTOGRO)に設置し、11月よりPANs、ANsの連続観測を開始した。同サイトで既に観測を継続しているNO、NO2、総反応性窒素酸化物(NOy)、全硝酸(T.NO3)の観測データに加え、測定原理の異なるTD-CAPS法によるPANsとANsのデータを加えて、NOyとΣ(NO+NO2+PANs+ ANs+T.NO3)を比較すると、約100±5%の範囲内で値が一致することを確認できた。これにより、これまでmissing-NOy成分として詳細が未解明のままにされていた部分のほとんどがPANsとANsで説明できること、またこれら両成分の合算量がT.NO3量と同程度、対NOy比で20-40%程度、を占めることも確認できた。H25年3月には同連続観測と並行してガスクロマトグラフ-化学イオン化質量分析 (GC-/NICI-MS)によるPANs、ANsの個別成分分析用大気試料の試験採取と成分別分析を行い、TD-CAPSデータと整合的な予備分析結果を得ることができた。 最終年度であるH25年度はTD-CAPS法によるPANsおよびANsの連続観測を継続するとともに、 GC-/NICI-MS試料の捕集・分析を春夏秋冬の4季毎に実施しできることから、PANs、ANsの主要構成成分の季節変動も明らかにできる見通しがついた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、大気中での寿命が長く、かつ、分解すると NO2 を放出するためNOx の長距離輸送担体として働く有機(過)硝酸エステル類の全量 (PANs+ANs) の連続観測を我が国の代表的な清浄地域の一つである沖縄本島辺戸岬において行ない、長距離輸送中でも生き残り、越境大気汚染の原因となっている PANs+ANs の実態を定量的に把握し、加えて、越境汚染の代表的な時期である春季 (3~5月) にPANs+ANsの個別成分分析用の大気試料を捕集し、GC-/NICI-MSにより各物質別に定量するとともに、個々の熱安定性、OH 反応性について文献、実験室実験を通して得ることにより、日本および西太平洋縁辺域での越境汚染物質による光化学オキシダント生成への寄与を定量的に明らかにすることを当初の交付申請段階で目的とした。 沖縄県辺戸岬の観測サイトはインフラ等の問題から、そこでの観測に替わって、同じく大陸に面しかつローカルな汚染源の少ない能登半島珠洲においてPANs+ANsの連続観測を行なうことに計画変更した。 当初の予定ではH23年度中に同連続観測を開始する計画であったが、約半年程度の遅れで、H24年11月より連続観測を開始することができた。連続観測データの解析からほぼ予想通りの結果、即ちmissing-NOyのほとんどが今回連続観測を開始できたPANs+ANsで説明できること、が確認できた。また、GC-/NICI-MSによるPANsおよびANsの個別成分分析に関する予備試験結果により、今後1年間で、各季節の代表的な期間を選び、4~6回の試料採取と分析を行うことで、個別成分の季節変動に関する情報を得る目途もついた。現在大気試料の半自動低温濃縮装置の試運転中であり、これらを活用することにより多少遅れの出ている当初の研究計画も最終的には達成できるものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
H24年度中に、PANs、ANsの連続観測を開始できたこと、および個別分析のためのGC-/NICI-MSによるPANs、ANsの試料大気捕集とその分析についても予備試験を終えることができているので、最終年度では当初の予定に従い、以下の各項目を着実に実施することにより研究目的を達成する。 1)平成24年11月から開始したTD-CAPS 法を用いた PANsとANsの連続観測を本研究課題の実施期間末まで維持・継続し、これら大気汚染物質の観測データの集積を図る。(担当:定永) 2)NOTOGROでは先行研究で確立した NOy、T.NO3およびNOx(=NO+NO2)の連続観測も同時に行なっており、1)で得られたPANsとANsの連続測定データに加え、これらNOy、T.NO3、NOxのデータも用いて珠洲におけるNOy中のNOx、PANs、ANs、T.NO3間パーティショニングとその季節変動、気塊の由来別特徴について調べる。(担当:坂東、定永) 3)平成25年3月に予備的に実施した大気からPANsとANsの濃縮捕集およびGC/NICI-MS法による分離定性分析の結果から、これら化合物の濃縮捕集・分離定量の目処がついたので、捕集装置を作成し四季毎の捕集・分析を行い、PANsとANsの各構成成分の珠洲における季節変動を明らかにする。(担当:板野) 上記1)~3)で得られる結果を基に、ANsとPANsの主要構成成分の通年変動パターンを推測し、加えて各化合物の熱的・光化学的安定性に関する知見を基に、越境輸送されて来るANsおよびPANsによる大気汚染(光化学オキシダント)生成への寄与を評価する。(担当:坂東)
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