研究課題/領域番号 |
23241017
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研究機関 | 独立行政法人国立環境研究所 |
研究代表者 |
野尻 幸宏 独立行政法人国立環境研究所, 地球環境研究センター, 上級主席研究員 (10150161)
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研究分担者 |
酒井 一彦 琉球大学, 熱帯生物圏研究センター, 教授 (50153838)
高見 秀輝 独立行政法人水産総合研究センター, その他部局等, 研究員 (50371802)
鬼塚 年弘 独立行政法人水産総合研究センター, その他部局等, 研究員 (60536051)
中野 智之 京都大学, 学内共同利用施設等, 助教 (90377995)
澁野 拓郎 独立行政法人水産総合研究センター, その他部局等, その他 (10372004)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 海洋酸性化 / 影響評価 / 二酸化炭素分圧制御 / 海洋生物 / 飼育実験 / 無脊椎動物 / 沿岸海水 / 二酸化炭素分圧 |
研究概要 |
可搬型海水中CO2分圧計測装置を、瀬底実験所のサンゴ礁浅海域に設置し、春期にはCO2分圧が約250から550ppmの間で大きく日周変動することを明らかにした。他の実験所でも沿岸域のCO2分圧を直接計測する手法について、装置の現場使用の問題点を明らかにして実使用に向けた改善を行った。 造礁サンゴを対象に、幼ポリプと成体群体片の石灰化に及ぼす海洋酸性化の影響を水槽実験で検討し、現在よりも低いCO2分圧で石灰化が大きく、かつ褐虫藻の存在が酸性化の影響を緩和することを明らかとした。造礁サンゴの成体群体片を用いて、海洋酸性化が石灰化に及ぼす影響の種間比較を検討し、種によって海洋酸性化の影響が異なることを明らかとした。 海水中のCO2分圧を原海水から2000ppmの範囲に調節したチャンバー内で、サザエ浮遊幼生の変態を誘起する有節サンゴモを6週間飼育した。そこに変態可能となったサザエ浮遊幼生を投入し、48時間後に変態した個体の割合を調べた。変態率は、1000ppmで低下し1500ppm以上で0%となった。1500ppm、2000ppmで殻の奇形割合が非常に高くなった。1000ppm以上では、有節サンゴモのサザエ浮遊幼生に対する着底誘因効果が阻害され、1500ppm以上ではサザエ幼生自体の成長も阻害されることが分かった。 クサイロアオガイの受精卵を海水のCO2分圧を280ppmから1000ppmに調整して培養した結果を実験対照区(400ppm)と比較した。その結果、クサイロアオガイの幼生が持つ原殻の形態及びサイズに影響がみられ、600、800及び1000ppm条件では原殻サイズが有意に低下した。カサガイ4種の成体についても400ppmと2000ppmにて28日間培養した結果、2000ppm条件では殻の外表面が白くなり溶解することが、電子顕微鏡による写真撮影でみられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
pCO2を一定に制御した海水掛け流しの水槽実験では、造礁サンゴの石灰化と海水の酸性度の関係について、種内の発生段階の違い、褐虫藻のあるなしの影響、種間の比較などの評価をほぼ達成したので、次年度は現場でのpCO2日周変動を実験条件に取り入れた実験を実施する。可搬型pCO2計導入によって、サンゴ礁海域でのpCO2の日周変動を連続計測することが可能であることを実証したので、次年度は季節ごとに現場連続でpCO2測定を実施する。 岩礁藻場におけるCO2分圧の日周変動パターンを基にして、現在のCO2分圧よりも高いレベルで変動する海水中において、エゾアワビ浮遊幼生を飼育し、このような変動がエゾアワビの初期発生に及ぼす影響を明らかにした。さらに、アワビ類やサザエ浮遊幼生の着底を高い割合で誘起する石灰藻サンゴモ類の浮遊幼生の生残や着底誘因能に対するCO2分圧の影響が解明された。アワビ類やサザエなど水産上重要な巻貝類について、日周変動や種間関係を考慮したより実際的な海洋酸性化の影響が明らかとなった。 カサガイ類への海洋酸性化の影響査定実験系を新たに確立することができた。可搬型pCO2計による沿岸のpCO2計測についても本格運用に向けた準備がほぼ整った。また、前年度までに得られたウニ類への低領域pCO2値の影響を調べた結果については海外査読付き学術誌に受理され、海外のシンポジウムでの研究発表も行った。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題では、平成23年度に大型備品として可搬型pCO2計の整備を行い、平成24年度にその実利用法の検討を進めた。その結果、これまでに国内外で行われてきた酸性化海水を作り水生生物への影響評価を行うという海水CO2制御実験系と比較して、より優れた制御を行う技術開発を行った。現在までに、琉球大学瀬底実験所で、新たな考え方に基づく海水CO2制御システムが組みあがり、CO2の分圧を将来CO2条件に高めた大量の海水が使えるようになった。これにより、より大型生物の飼育あるいは生物の長期飼育に対応できる。平成25年度はこのシステムの利用研究の進行が期待され、今までできなかった大型の海洋生物飼育実験による海洋酸性化影響評価の結果が得られることが期待される。その時に、沿岸海洋の現場CO2分圧観測結果が蓄積されつつあることが活用され、現場のCO2分圧日周変動まで考慮した影響評価実験を進めることを計画している。
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