研究課題/領域番号 |
23241019
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研究種目 |
基盤研究(A)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
植田 和弘 京都大学, 地球環境学堂, 教授 (20144397)
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研究分担者 |
佐藤 真行 京都大学, 学際総合教育研究推進センター, 特定准教授 (10437254)
前田 章 東京大学, 教養学部, 特任教授 (30317309)
中川 真太郎 下関市立大学, 経済学部, 准教授 (20522650)
中元 康裕 九州産業大学, 経済学部, 専任講師 (10552200)
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キーワード | 持続可能な発展 / 主観的福祉 / キャピタルアプローチ / ジェニュイン・セイビング / 技術進歩 / 習慣形成 / 社会選好 / プロスペクト理論 |
研究概要 |
本年度は、幸福研究等の主観的福祉論の成果を持続可能な発展論に取り入れるための基礎を築くために、持続可能な発展に制度や政策が与える影響についての分析枠組を固めた。 まず、主観的福祉と持続可能性について、プロスペクト理論・経済成長モデル・利他主義モデルを利用し、理論と実証の両側面から包括的に研究を行った。第1に、他者を参照点と想定してプロスペクト理論に応用し、経済実験の手法を用いて損失回避の程度を測定、持続可能な経済を達成する上で重要な無償性との関連を分析した。第2に、経済成長モデルに消費の外部性を応用し、長期経済均衡へ向かう収束経路が一意に定まらず不決定となることで、経済政策の効果を確認することが難しいことを示した。第3に、持続可能な発展に資する公共財の自発的供給を考察する際にも温情効果は無視できないことが示唆された。 あわせて、制度と持続可能性について、財的資本基盤の持続可能性の分析枠組みの構築を行った。第一に、発展経路の形状に関する制度の役割について、特に発展経路の不安定性に起因する悪影響をボラティリティで定式化した。第二に、持続可能な発展のマクロ経済モデルについて、環境・資源等のもつスピルオーバー効果を考慮し国際公共財モデルを応用した分析枠組を構築した。第三に、持続可能な発展に寄与する技術進歩の役割を分析するために、動学モデルを構築し、割引率など重要パラメータの振る舞いについて分析を行うことで、より精密な持続可能な発展の経済モデルが作られた。さらに、世代間衡平性という非厚生要因を分析するために、Asheim Mitraら提案するsustainable discounted utilitarianismに関するシミュレーションを試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
持続可能な発展の経済分析のための基礎理論を体系的に整理した上で、理論的ならびに実証的な研究が推進された。また主観的福祉の研究動向の調査に基づいて、さらに当該分野の研究を発展せしめる実験が試された。こうした基礎は計画通りに確立されており、次年度以降の研究計画へと円滑に続くものであるため,概ね順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画に沿って進める。主観的福祉と持続可能性については、最適経済成長、シャドウプライス、ジェニュイン・セイビングの三点についてマクロ経済モデルを定式化する。その際には特に顕示的消費ならびに習慣形成の効果を表現するものを構築する。また実験的アプローチとして公共財の自発的供給モデルに倫理や他者への順応といった要素が含まれているかを確認する。その上で、持続可能な社会の構築を目指した既存の取組みとの関連を再検討する。 制度と持続可能性については、上述の理論的基礎によって既存のジェニュイン・セイビングのデータを調整することを試み、23年度に構築された制度変数を含めた計量経済モデルに取り入れる。また分権的主権国家システムの公共経済モデルと技術移行モデルを構築し、主観的福祉の持続可能な発展に関する理論と実証の両面からの解明を目指す。
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