研究課題/領域番号 |
23241019
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
植田 和弘 京都大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (20144397)
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研究分担者 |
佐藤 真行 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 准教授 (10437254)
中元 康裕 九州産業大学, 経済学部, 講師 (10552200)
中川 真太郎 下関市立大学, 経済学部, 准教授 (20522650)
前田 章 東京大学, 教養学部, 特任教授 (30317309)
西尾 匡弘 独立行政法人産業技術総合研究所, エネルギー技術研究部門, 主任研究員 (70357698)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 持続可能な発展 / 主観的福祉 / キャピタルアプローチ / ジェニュイン・セイビング / 技術進歩 / 習慣形成 / 社会選好 / プロスペクト理論 |
研究概要 |
本研究において持続可能性の分析枠組を拡大し,幸福研究等の主観的福祉論の成果を持続可能な発展論に取り入れる分析を進めていくために,本年度は最適経済成長,シャドウプライス,ジェニュイン・セイビングなどの包括的資本に関する研究を行った。 第一に,幸福度に影響を与えることがすでに明らかにされている2つの要素,1)他者との周囲の人々の消費を参照水準とする顕示的消費,2)過去の自分自身の消費を参照水準とする習慣形成について,持続可能性の研究枠組に導入するための研究を行った。前者については社会的比較に関する選択実験を通じた所得の外部効果を表すパラメータ推定 や,ラボ実験を通じた利他性を表すパラメータ推定 を行い,従来の成長モデルに主観的福祉を導入するための修正事項を明らかにした。後者については,個人の主観的な将来割引に焦点を当て,社会的時間選好率とリスク回避度に関する理論分析を行い,主観的福祉を導入した際の持続可能性評価シミュレーションにおける割引パラメータの適切な設定について含意を引き出した 。また,実際の試算として,主観的福祉,なかでも習慣形成を導入したときの持続可能性指標の理論モデルを構築し,単純化の仮定を置いて数値例を示し,本研究の最終成果にむけての基礎を築いた。 第二に,持続可能性にあたえる制度や構造的な影響について,貿易・グローバリゼーションについての開放経済モデルの構築に取り組んだ。分権的な主権国家システムとグローバル公共財としての環境を取り入れた世代重複モデルにより,開放経済における持続可能性分析の枠組みを構築した 。また,技術水準の向上あるいは新技術採用の影響についても分析した。 これに加えて,持続可能な発展経路に関して制度を踏まえて分析する時系列計量モデルを構築し,本年度の理論的研究との融合に着手した 。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画に基づいて,他者との比較や時間的な変化といった主観的福祉についての従来の研究によって明らかにされている重要項目について,持続可能な発展の経済分析に統合するための理論的ならびに実証的,あるいは実験研究が推進されている。また貿易やグローバリゼーションを含めた様々な制度的要因を分析する理論的・実証的研究も推進されている。主観的福祉に基づく持続可能性評価にむけての指標による統合化にも着手できており,概ね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
概ね当初の研究計画に基づいて進展していることから,今後も (1)幸福等の主観的福祉と持続可能性,および(2)制度と持続可能性 に関する研究を行っていき,最終的に両者の融合する評価モデルを提示する。 (1)については,従来の効用で構築される最適経済成長モデルと,主観的福祉を導入して構築される(最適)経済成長モデルとを比較することによって,定常状態の水準と持続可能性についての分析を通じて主観的福祉の持続性を経済学的に分析していく。また,シャドウプライスについても,効用から構築される社会厚生の増分から求める場合と,主観的福祉から構築される社会的価値関数から求める場合との差異に着目し,ジェニュイン・セイビング(以下GS)などの持続可能性指標に与える効果と,持続可能性の判定結果にもたらす影響を理論面から明らかにしていく。これに並行して,アンケート調査等に基づく行動経済学的研究や,フィールド研究に基づく実験的研究を理論研究に付きあわせることによって,主観的福祉を想定した各資本のシャドウプライスの特定に向けた研究を行い,GSの改良を念頭に置いた各国単位の持続可能性指標として数値化を行っていく。 (2)については,貿易・国際システムや環境技術移転政策あるいは政治の質といった制度的要因を分析していく。これまでに構築した地球環境を国際公共財として捉えた2国世代重複モデルの分析を踏まえ,現実世界を反映するモデルの 拡張や修正により,制度と持続可能性の関係の分析を進めていく。また,各国のGSの経済モデルに基づいて,各国の制度・国情データを収集し,多国間関係において,制度が幸福等の主観的福祉の持続可能性に与える影響の時系列計量経済分析や統合評価シミュレーションモデルの開発を通じて,幸福等の主観的福祉の持続可能な発展を理論と実証の両面から解明することを目指す。
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