研究課題/領域番号 |
23241027
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
川添 良幸 東北大学, 未来科学技術共同研究センター, 名誉教授 (30091672)
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研究分担者 |
水関 博志 東北大学, 金属材料研究所, 准教授 (00271966)
ベロスルドフ ロディオン 東北大学, 金属材料研究所, 准教授 (10396517)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 第一原理計算 / 数値シミュレーション / 全電子混合基底法 / ファンデ ルワールス力 / 金属酸化物構造体 / クラスレート水和物 / 水素貯蔵重量比 / スーパーコンピューター |
研究概要 |
熱は単純な広く行われるようになったエネルギー算定を遙かに超える問題であり、従来は現象論的な算定に止まっていた。そのため、材料の熱伝導率を実験結果を用いずに算定したり、熱電変換効率の良い材料の理論設計は不可能と思われていた。 本挑戦的萌芽研究では、この問題を物理の理論に立ち返って検討し、定量的な熱伝導及び熱電変換の算定を試みた。まず、第一原理シミュレーション計算には、研究グループが独自開発している全電子混合基底第一原理シミュレーション計算プログラム・パッケージTOMBO(TOhoku Mixed Basis Ab initio ProgramPackage)を活用した。格子の調和振動を算定する方策(我々の開発による、各原子を動かして力定数を算定し、ダイナミカル行列を解く)を、非調和格子振動に拡張し、全エネルギーの3次及び4次の微分係数を求め、それを元に、熱伝導と熱電変換の効率を算定した。全エネルギー算定を、その3次以上の微分係数まで算定可能とするため、TOMBOの計算精度の向上を図り、必要とするレベルを達成した。熱電変換効率の算定に当たり、まず、従来から知られているBiTe等を最初に扱った。 実験値の知られている材料に対し、十分な精度でシミュレーション計算結果が得られることを確認し、その後、新規材料設計を開始した。具体的には、GeSe等を対象として、熱伝導率及び熱電変換効率の算定を試みた。これらの成果は、国内外の会議で発表を行い、論文としてまとめて公表予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究期間を通して、本研究グループ独自開発の全電子混合基底法第一原理シミュレーションプログラムパッケージTOMBOを活用し、定式化から始めシミュレーション計算プログラムを開発して来た分子間での相互励起を取り込んだ真の意味でのファンデルワールス力計算は、不活性原子間の相互作用算定から始め、昨年度までに水程度の小規模分子間の計算までを成功させた。 クラスレート水和物及びMOFの原子構造、及びヘルプガスや付加金属原子種を探索・最適化し、水素貯蔵能力の限界を算定算定を試みた。第一原理シミュレーション計算によって温度の効果を算定し、100度C近傍で水素を効率的に放出できる新規材料の探索を実施した。その中でカリックスアレーンを母体しリチウム原子を付加した場合の水素貯蔵能及び放出温度において、米国エネルギー省の基準を超える貯蔵能を有する新規水素貯蔵材料を発見し、学術誌に公表した。 TOMBOの時間依存シュレディンガー方程式解法は、他の研究グループではまだ実現していない原子の組み替えを含む化学反応の時間発展トレースを可能とした。特に、高密度水素貯蔵法の一つとして期待されている水素分子を触媒作用を活用して水素原子に分解して貯蔵する方策のシミュレーション計算を、ニッケル触媒の最小単位である2原子クラスターを使って精密な数値シミュレーション計算を実施した。エネルギーの高い励起状態までを取り込まないと計算が収束しないため、スーパーコンピューターを活用した超大規模シミュレーション計算を実施した。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度において、これまで原子同士から始め、まだ小さい分子のみへの適用に止まっていた、全電子混合基底法第一原理シミュレーション計算による相互励起・分極によるファンデルワールス力の算定を、本研究の対象物であるクラスレート水和物及び金属酸化物フレームワークへ拡張し、各種ケージ内での水素分子の弱い吸着状態の詳細な解析 を完成させ、公表する。 通常の第一原理シミュレーション計算を適用し、本研究の対象物であるクラスレート水和物及び金属酸化物フレームワーク最適な触媒及び貯蔵材料の探索を広範囲に実施し、重量密度及び体積密度共に米国エネルギー省基準を超える新材料を設計し、その結果を学術雑誌に発表する。 我々の開発した熱力学計算法により、本研究で見い出した新規クラスレート水和物(ヘルプガスの効果を取り込んだ算定)及び金属酸化物フレームワーク(付加金属原子の効果を取り込んだ算定)に対して、水素貯蔵量をパラメーターとして、温度・圧力相図を作成し、より高温・低圧での水素貯蔵・輸送の可能性を探る。 本研究参加者全員により、最終年度のまとめを行う。これまでの3年間の研究期間での研究実績を含め、国内外会議で成果の発表を積極的に行い、論文の出版をインパクトファクターの高い国際学術誌に行う。特に、クラスレート水和物は、融解し、放出される水素が酸素と反応すれば、残りは全て水だけという完全に環境に優しい水素貯蔵・移動材料となることが期待されるため、材料関連以外に環境関連の国際会議及び学術雑誌にも発表する。本研究全体をまとめた報告書を作成し、関係者に配布する。
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