研究課題
基盤研究(A)
フラーレンは球状に広がるπ共役系に起因して,優れた電子受容体またはエネルギー受容体として働く。このフラーレンと有機色素を連結させた系は精力的に研究され,光誘起電子移動やエネルギー移動についての基礎的な知見から,光電変換素子などへの応用に至るまで数多くの検討がなされてきた。色素–フラーレン連結体は二つのユニット間の距離が短い場合,高速・高効率のエネルギー移動や,電子移動後に生成する長寿命の電荷分離状態など,興味深い物性を示す。そのため,極限まで色素部位を近接させた系として,色素骨格をフラーレン骨格に直接導入した分子について興味が持たれる。本研究ではフラーレンC60の炭素一つが窒素に置き換わったアザフラーレンC59Nを用いると,電子豊富なベンゼン環を直接C59Nに導入できることに着目し,有機色素がC59N骨格に直結した分子の合成を行い,その電子物性および光励起状態からの緩和過程について詳細に検討した。二量体 (C59N)2からC59Nカチオン種を発生させることで,有機色素であるBODIPY誘導体 (BDP) およびスクアリン誘導体 (SQ) を直接C59N骨格に導入した連結体BDP–C59NおよびSQ–C59Nをそれぞれ合成した。色素–C59N連結体のCHCl3溶液での紫外可視吸収スペクトル測定を行ったところ,いずれも紫外領域にC59N骨格由来の吸収を示すのに加えて,可視領域に色素骨格由来の強い吸収を示した。また,その色素由来の吸収はBDPまたはSQに比べ長波長シフトしており,吸収ピークの形状もより幅広くなっている。これはC59N骨格と色素骨格との間に電子的な相互作用があることを示す結果である。
2: おおむね順調に進展している
フラーレンC60の一つの炭素原子が窒素に置換されたアザフラーレンC59N骨格は,C59Nカチオン種を発生させることにより電子豊富なベンゼン環をC59N骨格に直接導入できることが知られている。我々はこれに着目しフラーレン骨格に色素を直接導入するため,C60骨格の代わりにC59N骨格を用いることを考えた。本研究では1) 二量体 (C59N)2を出発原料としたC59N誘導体の効果的な合成法の検討とC59N骨格への有機色素の導入,2) 色素–C59N連結系の電子物性,3) BODIPY–C59N連結系の励起状態の緩和過程について詳細に検討した。本研究ではC59N骨格へ有機色素のπ共役骨格を直接導入できることに着目して,新規色素–C59N連結体を合成した。その酸化還元電位および吸収スペクトルを評価した結果,色素とC59N骨格の間に相互作用が観測され,これに理論的解釈を加えた。また,BODIPY–C59N連結体では,二つのユニットが近接していることに加え,BODIPY部位の軌道がC59N骨格にまで非局在化することにより,色素由来の吸収波長で励起すると,きわめて速やかにC59N骨格の一重項励起状態が生成することを実証した。色素–C59N連結体は,高速・高効率な電子あるいはエネルギー移動が起こる系を容易に構築できると考えられ,光電変換素子などへの応用が期待できる。
空のC60の場合と同様に、水素分子を内包したフラーレンC60では、光照射により比較的寿命の長い三重項励起状態を与えることが知られている。本研究で合成した小分子内包C60においても、三重項励起状態の寿命を測定し、内包小分子の電気双極子との相関を明らかにする。さらに、C60に内包された水素分子のオルトーパラ変換を参考に、内包水分子のオルトーパラ変換を観測し、フラーレン骨格との相互作用を明らかにする。空のC60への窒素原子挿入、ならびにリチウム原子の挿入がイオンビーム条件下で可能であることが知られている。分子内包フラーレンに対して、この条件を適用すれば、内包分子と窒素原子、あるいはリチウム原子との化学反応により、フラーレン骨格内部で磁気双極子をもつ化学種を発生できることが期待される。そこで、H2@C60へのNまたはLi挿入反応により、フラーレン内部でのNH2ラジカル、あるいはLiH2種の発生を試みる。H2O@C60には、内包水分子に由来する電気双極子が存在する。電気双極子の整列による移動度向上を期待し、H2O@C60の薄膜を用いた電界効果型トランジスタを作成し、その特性を評価する。デバイスの作成と評価は、北陸先端大学院大学の村田英幸教授との共同研究として行う。
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