研究課題
有機薄膜太陽電池の研究分野においては、PCBMと呼ばれるフラーレン誘導体が、1995年に合成されて以来、依然として標準的なアクセプター材料としての位置を占めており、更なる光電変換特性の向上のためにはPCBMの性能を上回るフラーレン誘導体の開発が重要である。これまで、PCBMの付加基の構造修飾や多重付加による材料開発が数多く報告されてきたが、PCBMに置き換わるほどの性能発現には至っておらず、従来に無い視点からの材料開発における分子設計指針を提唱することが重要である。従来の1分子の構造修飾に力点がおかれていたフラーレン誘導体の開発に対して、本研究ではダイマー型のフラーレン誘導体に注目し、合成ならびに太陽電池デバイス作製から特性評価までを一貫して検討した。標準的なアクセプター材料であるPCBMを近傍に接合させたダイマー型フラーレン誘導体を合成し、標準的なp型ポリマーP3HTと、代表的な低バンドギャップポリマーPTB7の2種類のドナー材料と組み合わせた有機薄膜太陽電池の作製ならびに評価について検討した。その結果、ダイマー型フラーレン誘導体を用いたデバイスは、P3HTならびにPTB7のどちらの組み合わせにおいても、PCBMを用いたデバイスに匹敵する光電変換効率を示すことがわかった。これまでに報告されているフラーレン誘導体とは異なり、今回のダイマー型フラーレン誘導体は、低バンドギャップポリマーPTB7への適用が可能であり、アクセプター材料の開発において興味深い。また、2つのC60分子の連結様式の違いが、ダイマー型フラーレンの光電変換特性に影響を与えることが明らかとなり、今後の分子設計指針へと発展することが期待される。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、穏和な条件下での有機化学反応を駆使によりフラーレンのσ骨格ならびにπ共役系を自在に切断することによって、これまでに無い三次元π共役系を実現させることを目的としている。フラーレン誘導体は有機薄膜太陽電池の優れたアクセプター材料として近年注目を集めているが、より高い光電変換効率の実現には、よりLUMOレベルが高く、薄膜状態において高い電子移動度を有する誘導体の開発が必須である。本研究で得られるナノカーボン材料は、骨格変換と官能基導入によって、自在に軌道準位と分子構造を変換することが可能である。そこで、ドナー高分子と修飾ナノカーボンで構成されるバルクヘテロジャンクション型の有機薄膜太陽電池デバイスを構築することによって、さらなる変換効率の向上を目指す。このような観点から新規フラーレン誘導体を合成し、太陽電池デバイスへの応用を検討しており、おおむね順調に進展している。
空のC60の場合と同様に、水素分子を内包したフラーレンC60では、光照射により比較的寿命の長い三重項励起状態を与えることが知られている。本研究で合成した小分子内包C60においても、三重項励起状態の寿命を測定し、内包小分子の電気双極子との相関を明らかにする。さらに、C60に内包された水素分子のオルトーパラ変換を参考に、内包水分子のオルトーパラ変換を観測し、フラーレン骨格との相互作用を明らかにする。空のC60への窒素原子挿入、ならびにリチウム原子の挿入がイオンビーム条件下で可能であることが知られている。分子内包フラーレンに対して、この条件を適用すれば、内包分子と窒素原子、あるいはリチウム原子との化学反応により、フラーレン骨格内部で磁気双極子をもつ化学種を発生できることが期待される。そこで、H2@C60へのNまたはLi挿入反応により、フラーレン内部でのNH2ラジカル、あるいはLiH2種の発生を試みる。H2O@C60には、内包水分子に由来する電気双極子が存在する。電気双極子の整列による移動度向上を期待し、H2O@C60の薄膜を用いた電界効果型トランジスタを作成し、その特性を評価する。デバイスの作成と評価は、北陸先端大学院大学の村田英幸教授との共同研究として行う。
すべて 2014 2013 2012
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件) 学会発表 (6件) (うち招待講演 2件) 図書 (3件)
Chem. Commun.
巻: 49 ページ: 3670-3672
DOI:10.1039/C3CC41084F
Nat. Commun.
巻: 4 ページ: 1554
10.1038/ncomms2574
Org. Lett.
巻: 15 ページ: 2750-2753
DOI:10.1021/ol401083c
Chem. Lett.
巻: 42 ページ: 879-881
10.1246/cl.130358
巻: 15 ページ: 3199-3201
10.1021/ol400982r
J. Am. Chem. Soc.
巻: 134 ページ: 12881-12884
DOI:10.1021/ja211944q
Proc. Natl. Acad. Sci. USA
巻: 109 ページ: 12894-12898
doi: 10.1073/pnas.1210790109