研究課題
本研究では、フラーレンケージへの窒素原子のドープに起因するフラーレン骨格内部の性質の変化を明らかにするために、C59Nの内部空間に小分子を導入する手法、すなわち、 (1) 小分子内包C60から直接誘導する方法、(2) 前駆体の11員環開口部を拡大し、小分子を導入した後、元の大きさの開口部まで閉環し、C59N骨格を構築する方法の2通りの手法を開発した。合成したH2O@(C59N)2、H2@(C59N)2の1H NMRを測定した結果、C59N骨格に内包された小分子のプロトンシグナルは、C60に比べより強く遮蔽された高磁場領域に観測された。また、H2O@(C59N)2のシグナルの半値幅は1.6 Hzであるのに対し、H2@(C59N)2では4.1 Hzとブロードニングしていることがわかった。そこで、より詳細に内包小分子の挙動を調べるために、260-360 Kの温度範囲においてスピン格子緩和時間T1を測定した。その結果、H2@C59NのT1はH2@C60とほぼ同程度であったにも関わらず、H2O@C59NのT1はH2O@C60の約3倍の値をもつことがわかった。そこで、モデル化合物HC59Nの静電ポテンシャルを理論計算を用いて評価した結果、予想に反し、窒素原子上の静電ポテンシャルは、骨格外部では負に、骨格内部では正に帯電していると示唆された。このことから、窒素原子上の非共有電子対の大部分がフラーレン骨格のπ共役に参画しており、内包水分子の酸素原子は骨格上の窒素原子との間にむしろ引き合うような相互作用が働いていると考えられる。すなわち、C59Nに内包された水分子は骨格上の窒素原子の影響により、その回転運動が抑制され、核磁気緩和が遅延しているものと考えられる。
27年度が最終年度であるため、記入しない。
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