研究課題/領域番号 |
23241036
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
齋藤 晃 名古屋大学, エコトピア科学研究所, 准教授 (50292280)
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研究分担者 |
吉田 健太 名古屋大学, 高等研究院(エコ), 助教 (10581118)
田中 信夫 名古屋大学, エコトピア科学研究所, 教授 (40126876)
内田 正哉 埼玉工業大学, 付置研究所, 准教授 (80462662)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 電子顕微鏡 / らせん波 / 軌道角運動量 / 位相特異点 / 渦 |
研究概要 |
昨年度は電子らせん波に関する本研究課題についての昨年度の研究実績はおもに以下の4点である。1)電子らせん波を生成する2値化マスクとして、種々のフォーク型回折格子およびスパイラルゾーンプレートを作製し、電子顕微鏡への導入を行った。収束絞りに導入したスパイラルゾーンプレートにより、軌道角運動量90hのらせん波が生成できた。また直径20μmのフォーク型回折格子の作製および電顕への導入を行い、ナノメーターサイズの電子らせん波の生成に成功した。2)作製した2値化マスクをもちいて任意の軌道角運動量を付与した電子らせん波が生成できることを確認した。3)電子らせん波の伝播過程の観察し、マスク面から出射された電子波がレンズのクロスオーバー位置でらせん波を形成する過程を観察した。また、フレネル伝播を仮定したシュミレーションプログラムを開発し、実験結果が計算結果と極めてよい一致を示すことを確認した。4)電子らせん波によるナノ材料のマニピュレーションのための準備実験として、ガス雰囲気中の金属微粒子に電子らせん波を照射し、その挙動を観察した。いまのところ照射する電子らせん波の軌道角運動量に依存した微粒子の運動の誘起は明確には観察されていない。5)ヤングの2重スリット実験と同じレイアウトで、互いに軌道角運動量の異なる2つの電子らせん波の干渉実験を行い、異なる軌道角運動量をもつ電子らせん波が干渉することを明らかにした。6)フォーク型回折格子に電子らせん波を入射し、回折過程を観察した。この結果、フォーク型は、並進運動量移送にともない軌道角運動量も移送することを確かめた。これらの研究実績のうち、1、2、3、5については論文が受理されている。特に5については、複数の新聞や日経サイエンス誌にも取り上げられるなど多くの関心を集めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年まで当初の予定である1)電子線用のマスクの作成、絞り制御装置の開発および電子顕微鏡への導入、2)任意の軌道角運動量を付与した電子らせん波の生成、3)電子らせん波の伝播過程の観察および伝播シュミレーション、4)電子らせん波をもちいた円二色性イメージングのための基礎実験、5)電子らせん波によるナノマニピュレーションのための準備を完了し、1、2、3については論文が受理されている。ただし、4)については、互いに符号が反対の軌道角運動量をもつEELSスペクトルに明瞭な差が観察されていない。まず、もっとも単純な検証実験として、磁場との相互作用を行うことを予定している。その後、種々の磁性体薄膜試料に対して実験を行う。適切な試料の選択および試料調整についての検討およびEELSの取り込み角、フォーク型回折格子の直径の最適化など実験条件の最適化を行う必要がある。さらにマルチスライスシミュレーションにより結晶中の伝播にともなう電子らせん波の安定性の検証についても準備を進めている。また5)については、電子らせん波の照射による明瞭な回転運動の誘起を観察しておらず、試料の検討が必要である。これについても今回のナノマニピュレーション実験により適した試料の検討を始めている。 この他、当初予定していなかった6)異なる電子らせん波どうしの干渉性に関する実験的検証、を行うことができた。これについては論文が受理され、新聞や日経サイエンス誌にも取り上げられるなど多くの関心を集めた。また、6)フォーク型回折格子が軌道角運動量を移送する特徴を利用した軌道角運動量計測法についても提案することができ、現在論文を投稿中である。
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今後の研究の推進方策 |
昨年までの成果として、電子線用のマスクをもちいた任意の軌道角運動量を付与した電子らせん波の生成、その伝播過程の観察、および異なる電子らせん波どうしの干渉を実験的に明らかにしている。この結果を踏まえ、本年度は以下の3つの課題に取り組む。 1. 複数の電子らせん波間の相互作用の研究:昨年までの成果として、単一の渦(位相特異点)を含む電子ビームについてはその生成および伝播過程についての実験研究が既に完了している。本年度は、複数の位相特異点を含む電子ビームの生成およびその伝播過程の観察を行い、伝播にともなう渦どうしの相互作用の観察および光渦で観察されているGouy位相シフトの観察を試みる。 2.電子らせん波と磁場との相互作用の解明:電子らせん波は磁気モーメントを担うと考えられる。電子らせん波が磁場中を伝播する過程を観察することにより、磁場との相互作用を明らかにする。さらに強磁性体および反強磁性体試料との相互作用を観察する。その後、当初の目的である「電子顕微鏡版の偏光顕微法」の可能性を検証するため、軌道角運動量の符号が互いに反対の電子らせん波のEELSスペクトルを取得する。最近、結晶試料中を伝播する電子らせん波の安定性が議論されており、これについても実験的な検証を行う。入射した電子らせん波が安定に伝播する試料厚さの上限を確認し、円二色性の実験を推進する。 3.ナノマニピュレーション実験:これまでカーボン薄膜上の金属微粒子のマニピュレーション実験を試みてきたが、明瞭な微粒子の運動は確認されていない。本年度は、対象を液中に分散した金属微粒子に替え、電子らせん波を照射した液体およびその中に分散している金属微粒子の回転運動の様子を観察し、金属微粒子および液体に軌道角運動量が移送するか実験的に確かめる。
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