研究課題/領域番号 |
23241038
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
江島 丈雄 東北大学, 多元物質科学研究所, 准教授 (80261478)
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研究分担者 |
加道 雅孝 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 量子ビーム応用研究部門, 研究員 (30360431)
柳原 美廣 東北大学, 多元物質科学研究所, 教授 (40174552)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 軟X線顕微鏡 / 水の窓 / 炭素の窓 / 密着法 |
研究概要 |
研究目的を達成するため、平成24年度は昨年度に引き続き実験①では、シンチレータを用いた試料セル中に封入した生物細胞の最適観察条件の探索、開発①では、観察軟X線像の高空間分解能化を行うために、高倍率の対物レンズの導入などを行った。 このうち、実験①では、昨年度に問題となった生物細胞の放射線損傷の問題を回避するために、真空中に光学シャッターを設け、観察とシャッターを連動させることで不要時の細胞に対する放射線露光量の低減を図った。その結果、著しく放射線露光量が減り、細胞の放射線損傷の問題は解決した。一方で、新たな問題として撮像時の含水層の厚さのコントロールが難しく、現在のところ再現性の良い方法を見出せずにいる。これは、軟X線像を得るための露光時間、撮像の結果得られた軟X線像のコントラストなどの像の質に大きく影響するので、平成25年度で解決を図っていきたい。 また開発①では、昨年度に問題となった試料に対するダメージを減らすために、光学シャッターを導入し、撮像時以外の放射線露光時間を低減させた。その結果、試料に対するダメージは著しく減少した。また、これまでに20倍の対物レンズを用いて行っていた軟X線像観察に、新たに50倍の対物レンズを用いて観察を行った。その結果、20倍ではあまり問題とならなかった装置の振動およびシンチレータの複屈折が問題となることが明らかとなった。装置の振動についてはこれまでに使用していたターボポンプの代わりに蒸発型のNEGポンプ、イオンポンプなどの静的な真空ポンプを導入し、振動の低減を図った結果、安定に撮像できるようになった。一方、複屈折については、光路に偏光フィルタを組み込むことで安定した像が撮像できることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度までの実験結果に基づくと、マウス精巣ライディッヒ細胞を観察対象とした場合、軟X線の波長を水を最もよく透過する2.0nmから4.8nmまで0.01nmずつ振って得られた軟X線像は、細胞の厚さ、細胞を構成するオルガネラ、波長によって異なり、特に水層の厚さによって、全体の像のコントラストが大きく異なる。このため細胞を観察するための撮像条件をもとめるのが昨年度の目標で、その目標はある程度達成したが、その一方で封入した生物細胞の含水層のコントロールが難しいことも明らかとなった。このため、観察最適条件の再現性が悪く、この再現性を確保するための実験を新たに行う必要が明らかとなった。このため当初予定していた実験は予定よりもやや遅れることが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
上でも述べた通り、マウス精巣ライディッヒ細胞を観察対象とした場合の軟X線像は、含水層の厚さによって全体像のコントラストが大きく異なり、かつその含水層の厚さの制御が難しいことが明らかとなった。一方でこれまでの実験結果から、この含水層の望ましい厚さは、もっとも高い軟X線像のコントラストを与えるという条件と細胞を含水状態のまま保つという条件の2つを満たす解として、おおよそ3~5μmの厚さが最適であることが予想される。この条件を再現性よく満たすために、新たに試料セルに使用したSiNメンブレンに細胞周辺の含水層厚さの制御のための厚さ5μmのスペーサー層を導入し、水の厚さを正確に制御した状態での軟X線観察を試みる。
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