研究課題/領域番号 |
23241039
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
京谷 隆 東北大学, 多元物質科学研究所, 教授 (90153238)
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研究分担者 |
干川 康人 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (90527839)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ナノ材料 / ナノチューブ・フラーレン / ナノバイオ / 炭素 / 薬物輸送 / 酵素電極 |
研究概要 |
水分散性のカーボンナノ試験管(CNTTs)はタンパク質などの生体分子を取り込むナノ空間を持ち、また水溶液中で均一に分散することで溶液中の生体分子に対して影響を与えることができる。本年度では、アルツハイマー病の原因物質となるアミロイドβ(Aβ)の線維化挙動に対するCNTTsの効果について調査した。 ①水分散性カーボンナノ試験管によるアミロイド線維化の抑制 pH7.4のリン酸緩衝液中のAβは浸漬1日後から線維化が進む。それに対してAβ溶液にCNTTsを添加すると、アミロイドの線維化を示すチオフラビンTの蛍光が抑制される傾向が認められた。CNTTs添加量が300 ug/mLのとき、浸漬5日後においてもチオフラビン蛍光は完全に抑えられ、またTEMによる観察ではCNTTs周囲に線維は観察されなかった。Aβの一部はCNTTsの内部ナノ空間に内包されている様子が観察でき、溶液中のAβが吸着されていることが確認された。 ②水分散性カーボンナノ試験管に吸着されたAβ量の定量 これまで、ナノ物質にAβを吸着することで線維形成を抑制する研究はなされてきたが、その吸着量と抑制との関係は明らかにされていなかった。本検討では、昇温脱離法によるAβの熱分解で生じたHCNガスを定量することで、CNTTsに吸着したAβ量を測定した。その結果、CNTTs添加によって吸着されたAβは全体の24%であることが分かった。 Aβを吸着したCNTTsを分離除去したAβ溶液を一日静置すると、溶液内にアミロイド線維の形成が確認された。つまり、CNTTsに吸着された24%のAβの量が抑制に効いた訳ではなく、溶液中に存在するCNTTsが抑制に寄与していることを示す結果となった。以上により、CNTTsに吸着したAβ量を定量化することで、CNTTsのAβに対する特徴的な線維化抑制効果を明らかすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度では、自己組織的に線維化を起こすAβをカーボンナノ空間内に閉じ込めることによる線維化抑制効果と形成メカニズムの解明を進めた。当初の見込み通り、均一な大きさを持つ「ナノ容器」内部にAβを閉じ込めることに成功し、かつ、透過型電子顕微鏡による観察から、ナノ空間内では線維化が起きないことが示された。 加えて、CNTTsに吸着したAβ量を定量化したことで、Aβの線維化が単なるCNTTsへの吸着による濃度減少だけでなく、溶液中に存在するCNTTsの存在自体が抑制に寄与しているという、これまでに報告されたことのない新たな線維化抑制機構が考えられるようになった。 以上の成果により、カーボンナノ空間による生体分子の挙動の解明が進んだだけでなく、これらを利用したナノバイオ応用にも有用な情報が得られつつあり、研究は順調に進んでいると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度では、これまで得られた知見を活かして、カーボンナノ空間を利用したバイオデバイスへの応用の検討を進める。 規則的なカーボンナノ空間を持つ炭素被覆アルミニウム陽極酸化皮膜内に酸化還元酵素を固定化し、固定化された酵素の構造、状態、量を正確に評価、定量し、それに対応した酵素電極としての性能を調べていく。更にこれまで作製してきたフルクトースデヒドロゲナーゼを固定化した陰極だけでなく、ラッカーゼを固定化した陽極を作製し、これらを組み合わせることで優れた性能を示すバイオ燃料電池の開発を進める。
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