研究概要 |
本研究は,申請者らが開発したマイクロデバイスを用いた高収率電気細胞融合法を用いて,融合後の融合細胞の個々の細胞の挙動を経時的に観察し,細胞融合に関する生物学的知見を得るとともに,マイクロメートルスケールのオリフィスを核の融合を阻害する隔壁として利用することにより遺伝情報の混合を伴わない細胞融合・細胞質移植等の新しい手法を開発し,これらを用いた細胞の機能制御の方法とその再生医療への展開を探求することを目的として推進している。 まず,初年度(平成23年度)の研究においては,融合細胞の挙動の経時観察を容易に行えるようなチップの開発を行った。これは,チップ面に垂直に立てられた壁面に,電界集中を作るためのオリフィスを持つ,という3次元のマイクロ構造であるが,われわれは,自己形成メニスカスのモールディングで作製する手法を開発した。このチップを使うと,2種類の細胞を,オリフィスをはさんで,必ず1:1で,高い収率で融合できることが示された。 融合後の経時観察については,次の結果が得られた。すなわち,融合時点で融合されるのは細胞膜のみで,かつ,オリフィス径を細胞核の径よりも小さく作っているため,核はオリフィス両側にわかれて存在する。しかしながら,時間の経過とともに,融合した細胞は,チップ壁面に付着して増殖を始めるので,融合細胞はオリフィスのどちらか側に抜けてしまい,従って核同士も融合してしまう。このオリフィスを抜けた融合細胞のその後を追ったところ,多くの細胞に対して,分裂・増殖が観察された。すなわち,1:1で融合した細胞の多くは(少なくとも数世代にわたっては)生存をする。このような事実は,本研究のような高い収率で必ず1:1の融合を実現できる手法を用いて始めて得られる結果である。 今後,ES細胞と体細胞をオリフィスをはさんで融合し,ES細胞の持つ因子により,体細胞の初期化が生ずるかを,核の融合を許すような条件,および,オリフィスをはさんで核が独立したままで存在する条件,の両方の条件に関して,研究していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
細胞融合チップの製作および融合操作自体は高い再現性でできるようになったので,ES細胞との融合による体細胞の初期化過程の実時間観察,あるいはオリフィス径を十分に小さくとることにより,核同士が融合できない条件での,すなわち遺伝子汚染が生じないような条件でのES細胞との融合による体細胞の初期化など,従来法では研究が不可能であった領域に向かって研究を進めていく。
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