研究課題/領域番号 |
23241046
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研究機関 | 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所 |
研究代表者 |
山口 浩司 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所, 量子電子物性研究部, 上席特別研究員 (60374071)
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研究分担者 |
岡本 創 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所, 量子電子物性研究部, 主任研究員 (20350465)
小野満 恒二 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所, 機能物質科学研究部, 主任研究員 (30350466)
IMRAN Mahboob 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所, 量子電子物性研究部, 特別研究員 (80417097)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ナノマシン / マイクロマシン / マイクロ・ナノデバイス / 電子デバイス・機器 |
研究概要 |
前年度進展した異なる振動モード間の強結合の研究をさらに進展させ、物理的に異なる共振器間をパラメトリック強結合することに成功した。このような結合共振器は、分子を識別して検出する分子センサーアレーや、機械振動を用いて超低エネルギーで信号処理を行うナノ機械プロセッサなどへの応用が期待されている。今回の成果で重要な点は、機械共振器間の結合が、①外部から、②電気信号により、③完全にON/OFF可能な形で、制御できる点である。これに関し Nature Physics 誌に論文が掲載され、複数の学術会議における講演招待を受けている。また、複数のモードを個別にパラメトリック励振できることを実証し、これを用いてモード間での位相情報を転送する「パラメトロンシフトレジスタ」の動作確認を行った。当初の提案である共振器を複数個作製する代わりに異なるモードを用いることにより、少数の共振器を用いて多数の共振器と同等の動作が実現できることを示した。 一方、さらに多くの共振器を結合していくと、従来光に対して研究が進められてきた「フォトニック結晶」と類似の原理により「フォノニック結晶」が実現できる。フォノニック結晶の特徴は、我々がこれまで研究してきた機械共振器とは異なり、機械振動の伝搬制御が可能となる点である。すでに Applied Physics Letters 誌にフォノントランジスタとしての基本構造の特性に関する論文が採択され、さらに展開した研究結果を投稿中である。 メカニカル素子応用に向けた新しい材料の研究も進めている。窒素をわずか1%程度添加することにより、共振幅が2ケタ近く向上する効果を発見し APEX 誌に報告した。また、半導体量子ポイントコンタクトとの集積を行い、極低温で128fm/Hz の変位検出を実現した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究として計画していた「新しい共振器構造による高周波共振器の実現」に関して、動的フォノニック結晶を用い、機械共振のパルス制御やスイッチングを実現した。具体的には多数の共振器を配列した構造において、機械振動の伝搬実験を行い、その電気的な動的制御を実証した。また「高次モードの利用」に関しては、昨年度のフォノンレージング動作の研究を発展させ、異なるモードにおけるパラメトリック共振の実現と、それらモード間の振動状態転送、特にシフトレジスタなど基本論理素子のデモンストレーションに成功した。また、「パラメトリック共振器の特性向上」に関しては、窒素ドープにより引っ張り歪を印加した高Q共振器の研究により、室温で10万を超える継時変化のない機械共振器を実現したとともに、量子ポイントコンタクト構造を結合させることにより、128fm/Hz の変位検出感度を実現した。 一方、結合共振器におけるパラメトリックモード変換に関しては、結合共振器におけるコヒーレント振動の実験を発展させ、ラムゼ干渉やフォトンエコー実験を行い、古典的位相緩和の時定数の測定に成功した。 これらの成果は当初計画に従い、本研究課題が順調に研究が進展していることを示している。
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今後の研究の推進方策 |
フォノンレージング動作の研究をさらに発展させ、2-modeスクイージングの実験を進める。具体的には、結合両持梁構造を用いて二つのモードをパラメトリックに結合できる共振器を作製し、これらの共振周波数の和周波によるパラメトリックポンプにより、2つのモードの和ならびに差モードに対して、それぞれ熱雑音の圧縮ならびに増幅を行う。特に増幅に関しては、二つの熱雑音の相関測定を行い、実際に周波数下方変換によるフォノンのもつれ状態(正確にはその古典的相対状態)の生成を実証する。 一方、量子力学的なもつれ状態の生成に向けて、GHz領域のパラメトリック共振器を実現する。具体的には、表面弾性波トランスデューサをメンブレン形状の機械共振器に形成し、高周波数モードの選択的励振ならびに検出を行う。また、圧電効果による周波数チューニングを実証する。 また、共振器のパラメトリック制御に関しては、パラメトリックポンプの信号をパルス状に印加し、振動の高速制御を実現する。具体的には、二つの共振モード間でのパラメトリック結合において、πパルスに相当するパラメトリックポンプを与えることにより、振動エネルギーを一方からもう一方のモードに転送し、対象としている共振器の振動を停止させる。
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