本研究ではレトロトランスポゾン由来の3つの遺伝子、Peg10、Peg11、Sirh7の遺伝子の機能解析を計画した。Peg10 KOマウスは胎盤形成不全により初期胚致死となる。本研究の目的の一つは、このマウスの初期胚致死の分子機構を解明することである。ところがPeg10は2つのORFをもつため、ORF1タンパク質に加えてORF1-ORF2融合タンパク質の2種類が作られる。この2つのタンパク質は細胞内での局在も異なり、相互作用するタンパク質も異なることから、真の原因の解明には、どちらのタンパク質の欠失が初期胚致死の原因となっているかを明らかにする必要がある。そのため、ORF1とORF1-2のそれぞれおよび両者をコードする遺伝子を組み込んだレンチウィルスを作製し、これによるPeg10 KOマウスの致死性の回復実験を行った。両者を含むものでは致死性の回復が見られ、目的のORF1とORF1-2の実験を進めている。Peg11は後期の胎盤機能の維持に必須でありKOマウスは胎児期後期/新生児期致死を示す。一方で、この遺伝子のアンチセンスRNAである母親性発現を示すantiPeg11のKOマウスでは、Peg11の発現量が4-6倍近く上昇し新生児期致死を示す。本研究の目的の2つ目は、2種類のKOマウスにおいて、それぞれの致死の原因となっている臓器の異常を明らかにするとともに、アンチセンスRNAの機能の解明を行なうことにある。特に後者の実験では、Peg11およびantiPeg11の二重KOマウスを作製し、Peg11の発現増加以外のantiPeg11の機能を解明する。ここまでの実験で、明らかにantiPeg11自体が機能をもつことが明らかになっている。3つ目の目的はSirh7の機能の解明で、すでに胎盤で高発現しているこの遺伝子のKOマウスの解析から胎盤構造が異常になることを明らかにした。この胎盤構造の異常が妊娠維持にかかわる機能と関係し、胎児の成長や出産などに影響を与えるかどうかを、現在検討している。
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