研究課題
snoRNAやtRNAは通常,化学修飾やアミノ酸運搬の役割を担っているが,近年の研究により,それらがプロセシングを受けたより短いRNAが,RNAiの働きをし,発がんに関与する可能性が示唆されている.多段階発がん過程においてステージ特異的にプロセシングを受けるsnoRNAとtRNAの探索を目的として,次世代シークエンスリードをゲノムにマッピングした時のマッピング形状解析を行った.マッピング形状解析を計算するソフトウェアとして,SHARAKUを開発し,ステージ間のマッピング形状の類似度を計算した.この結果を基に,ステージごとの形状変化を追跡することで,特異的にプロセシングを受ける非コードRNAを探索した.マッピング形状解析を行った結果,ステージ特異的にプロセシングを受ける候補として,Snord85が示唆された.Snord85は正常と転移でのみ,プロセシングを受けており,がん抑制遺伝子として働いていることが示唆された.時系列トランスクリプトームデータを高精度に解析するデジタルクラスタリングという手法を開発し,多段階発がん過程において特徴的な発現パターンを持つ遺伝子を16個のクラスタに分類した.とくに,悪性腫瘍において高発現となるクラスタにおいて,細胞の運動や接着に関わる遺伝子が基底膜の浸潤に関与していることが示唆された.トランスクリプトーム解析により同定された発現差異遺伝子群のひとつであるMeis1遺伝子については,そのコンデイショナルノックアウトマウスを用いた発がん実験を行った.その結果,Meis1遺伝子を皮膚特異的に欠損させた場合には,良性腫瘍の形成,および腫瘍の悪性化が抑制されるという結果が得られた.これによりトランスクリプトーム解析により示唆された腫瘍悪性化過程におけるMeis1遺伝子のがん遺伝子的な機能がマウスを用いた発がん実験により確認された.
2: おおむね順調に進展している
本年度は,マウス発がん実験で採取した腫瘍サンプルから次世代シークエンスにより得られたデータの解析,とくにマッピング形状解析を計算するソフトウェアとして,SHARAKU(Shape Aligner of non-coding RNA developed by Keio University)を開発した.SHARAKUを用いることにより,多段階発がん過程でステージ特異的にプロセシングを受けて導出されるsmall derived RNAの網羅的な解析を,世界に先がけて行うことができた.一方で,非コードRNAのネットワーク解析に必要とされるタンパク質RNAの相互作用予測プログラムは開発が遅れた.タンパク質RNA相互作用予測は非常に難しい問題であり,さらなるアルゴリズムの設計と改良が必要である.ネットワーク解析の新たな課題も出てきたが,非コードsmall derived RNAの網羅的な解析手法の開発には成功したため,研究はおおむね順調に進行していると言える.
平成26年度は本研究課題の最終年度にあたる.タンパク質RNA相互作用予測プログラムの改良を続けながらも,独創的な成果が期待できる解析ソフトウェアSHARAKUとマウス発がん実験から得られる次世代シークエンスデータを組合わせたsmall derived RNAの解析に注力して,発がん過程におけるderived RNAの役割を網羅的に明らかにするという世界初の成果を達成する予定である.
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PeerJ
巻: 1 ページ: e196
10.7717/peerj.196
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