研究課題
本研究では、種々の生物活性糖鎖や複合糖質を合成し、それらを用いて分子レベルや生体レベルにおける機能の解明を目指した。1)微生物由来複合糖質の合成:細菌細胞壁ペプチドグリカンフラグメントの合成研究を行い、4糖ペプチドフラグメントライブラリの構築に成功した。それらを用いて自然免疫受容体Nod2によるペプチドグリカン認識の解析に成功した。また予備的ではあるが8糖フラグメントの合成にも成功した。寄生菌由来リポ多糖についてピロリ菌、歯周病菌のリピドA部の合成が終了しており、それらの生物活性から寄生菌由来リポ多糖が急性炎症はほとんど惹起しないが、慢性炎症に関わるIL-18やIL-12の産生を誘導することを明らかにした。これらの他にもペプチドグリカンフラグメントとリポペプチド複合体の合成、赤痢アメーバ由来の免疫増強イノシトールリン脂質などの合成研究を実施した。2)一方動物の糖タンパク質に発現しているアスパラギン結合型(N-結合型)糖タンパク質糖鎖の合成研究を実施した。特徴的な構造を有するN-結合型糖タンパク質糖鎖として、コアフコース含有糖鎖やバイセクティングGlcNAc構造含有糖鎖、マウス成体脳の新型N-結合型糖鎖について、合成研究を行った。フコース含有5糖アスパラギン構造の構築に成功した。バイセクティング型糖鎖についても鍵4糖アスパラギン構造を合成した。さらに得られたフラグメントを用いてグリコデンドリマーの合成を行った。3)我々は“高速アザ電子環状反応”を用いたアミノ基への高速標識化法を開発し、この方法を用いてバイオイメージングに供する手法を開発した。この方法を用いて、細胞表層上の糖鎖構造が異なる癌細胞の転移過程を観測することに成功した。
2: おおむね順調に進展している
細菌由来複合糖質とアスパラギン結合型糖タンパク質糖鎖の合成研究ともに順調に進行している。また生物活性解析やイメージング研究も順調である。細菌細胞壁ペプチドグリカンフラグメントの合成研究を行い、4糖ペプチドフラグメントライブラリの構築に成功し、それらを用いた蛋白因子との相互作用解析は予定通りである。寄生菌由来リポ多糖は、急性炎症を引き起こさないが慢性炎症シグナルを誘導するという新しい事実を明らかにした。これらの他にもペプチドグリカンフラグメントとリポペプチド複合体の合成、赤痢アメーバ由来の免疫増強イノシトールリン脂質などの合成研究をも順調に進行している。アスパラギン結合型(N-結合型)糖タンパク質糖鎖の合成研究については、コアフコース含有糖鎖やバイセクティングGlcNAc構造含有糖鎖、マウス成体脳の新型N-結合型糖鎖にの合成を進めており、完成に向けて中間体の合成は順調に進んでいる。バイオイメージング研究についてはすでに多くの成果が得られており、より効率的な標識法の開発に成功した。これにより一層のイメージング研究を進めることが容易になった。
1.細菌細胞壁成分ペプチドグリカン(PGN)の合成研究、1-1)長鎖PGN部分構造の合成:種々のPGN受容体やPGN認識タンパク質群との相互作用の解析のために、PGNフラグメントの合成を行う。8糖あるいはそれ以上の糖鎖長を有するPGNフラグメントの合成について検討する。1-2) DAP含有PGN部分構造の合成:Nod1やDAP含有PGNの認識タンパク質の機能解析のために、Nod1のリガンドであるジアミノピメリン酸(DAP)含有ペプチドの効率合成を進め、種々のタンパク質との相互作用を解析する。2.受容体機能の制御とシグナル伝達機構の解明を目指したリポ多糖/リピドAの合成:新たに共生菌についてリポ多糖とリピドA部の構造研究を継続する。これも新たにスタートした2,3-ジアミノ糖を含むリピドAについて、合成を進める。3.免疫系の制御を目指した複合体の合成研究:様々な免疫増強複合糖質のシナジーを利用することで、抗がんや抗アレルギーなどの免疫系の制御が可能である。これまでに得た免疫制御分子群を組み合わせた複合体を合成し、それらの免役調節能を評価する。4.N-結合型糖タンパク質糖鎖の合成研究:糖鎖構造に依存する糖鎖機能の解明のために、特徴的な構造を有するN-結合型糖タンパク質糖鎖の合成に取り組む。コアフコース含有糖鎖やバイセクティングGlcNAc構造含有糖鎖、マウス成体脳の新型N-結合型糖鎖について、合成研究を行う。5.DOTA配位子結合型標識化プローブの開発と生体高分子の標識化と糖鎖のPETイメージング:高速電子環状反応の基質である共役アルデヒド誘導体とDOTA配位子をコンジュゲートした新しいタイプのプローブ開発に成功した。今年度はこの方法により種々のサイトカイン、抗体、糖タンパク質の標識を行い、PETによる生体内動態の解析や癌細胞へのターゲティングについて検討する。
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