研究課題/領域番号 |
23241075
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
佐藤 智典 慶應義塾大学, 理工学部, 教授 (00162454)
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研究分担者 |
松原 輝彦 慶應義塾大学, 理工学部, 講師 (10325251)
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研究期間 (年度) |
2011-11-18 – 2016-03-31
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キーワード | 糖鎖プライマー / 転移性がん細胞 / C型肝炎ウイルス / O-グリカン / グリコサミノグリカン / 糖鎖ライブラリー / 質量分析装置 |
研究概要 |
糖鎖プライマー法を用いて、細胞の機能と細胞の有する糖鎖生合成経路との関係について検討を行った。まず、糖鎖プライマー法によりC型肝炎ウイルス(HCV)の感受性はネオラクト系列の糖鎖の発現と関係していることが示された。そこで、HCVサブゲノム複製細胞に対して、単糖を添加してネオラクト系列の糖鎖の発現を向上させたところ、ウイルスゲノム量の抑制が見られた。さらに、ネオラクト系糖鎖の合成酵素の発現ベクターを作製し、HCVサブゲノム複製細胞にトランスフェクションさせたところ、HCVのウイルスゲノムの複製量が大きく抑制されていた。 次に、糖鎖プライマー法を用いてがん細胞の転移性に関与する糖鎖の構造解析と機能解析を行った。高転移性ヒト肺腺がん細胞で硫酸化糖鎖が多く検出され、る硫酸基転移酵素遺伝子のノックダウンにより遊走能の変化がみられた、胃がん細胞や乳がん細胞など対象のがん細胞を増やして、がん細胞の遊走性と硫酸化糖鎖の発現との関連を評価した。硫酸基転移酵素の遺伝子を細胞に導入して過剰発現させたところ、細胞の遊走性の顕著な向上が観察され、硫酸化糖鎖と細胞の遊走生徒の関連性が示された。 また、グリコサミノグリカン(GAG)型の糖鎖を伸長する糖鎖プライマーを用いて糖鎖伸長生成物についての検討を行なった。硫酸基付加糖鎖伸長生成物の回収および解析方法の検討を行い、GAG型糖鎖ライブラリーの構築を行なった。さらに、ムチン型糖鎖を得る事ができる2種類の糖鎖プライマーを用いて、ムチン型糖鎖ライブラリーの構築を行なった。ヒト胃がん細胞 において、糖鎖プライマーの糖アミノ酸の構造の違いにより異なった糖鎖伸長生成物が得られた。 オリゴ糖鎖の質量分析装置により得られるスペクトルより糖鎖構造を推定するプログラムの改良を行い、より高精度に構造を予測することが可能になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
糖鎖プライマー法を用いたグライコミクスの研究基盤として、糖鎖の分析方法の改良を行なった。また、質量分析装置により得られるマススペクトルから糖鎖構造を推定するプログラムの改良を行なった。このような手法の改良は順調に進んでおり、技術的な改良が達成された。また、糖鎖プライマー法を用いた糖鎖ライブラリーの構築と、細胞に置ける糖鎖機能解析も併せて実施した。C型肝炎ウイルスのゲノムの複製を宿主細胞での糖鎖の発現との関係についても研究が順調に進んでおり、より強い証拠となる成果が得られてきた。また、転移性のがん細胞での硫酸化糖鎖の発現に関する検討においても、糖鎖と転移性との関連性を明確に示すための新たな証拠となる成果が得られてきた。このような成果は、レベルの高い論文に投稿するために要求される成果が順調に得られていると考えている。また、ムチン型の糖鎖の生合成において、新たな生合成の制御機構に関する知見も新たに得られてきた。このように、糖鎖プライマー法を基盤としたグライコミクスの有用性が高まってきている。よって、順調に研究が進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
グライコミクスの手法に関しては、マススペクトルの解析プログラムが実データーで実行可能であるかを検討する。これが可能になると、他の研究者に活用してもらえるプログラムとして運用可能になる。また、糖鎖ライブラリーの有効活用の方法についても検討を行う。特に、診断あるいは検査法への活用を目指した検討を行う。既に予備的には検討を始めており、実用性を高める検討を行う。 細胞機能と糖鎖発現との関係については、C型肝炎ウイルス(HCV)と転移性のがん細胞に関する検討を継続して行なう。HCVにおいてはネオラクト系列の糖鎖がHCVのゲノム複製に与える影響について更に証拠となる実験を計画している。主な実験としては、糖鎖合成遺伝子を安定発現させた細胞を作製して、糖鎖の発現量の変化やHCVに対する感受性が変化するかどうかを検討する。転移性のがん細胞においては、硫酸化糖鎖のノックダウンや強制発現により細胞の遊走性に与える変化を検討する。 また、ムチン型の糖鎖の生合成に置けるアミノ酸の影響についても、糖鎖プライマー法を用いて検討を行う。特に、無細胞系での糖鎖伸長を検討することで、糖鎖プライマーの構造と糖鎖伸長との関係を明らかにする。この知見を元にして、糖タンパク質の生合成における新たな概念を提案することを目指す。
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