研究課題/領域番号 |
23241075
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
佐藤 智典 慶應義塾大学, 理工学部, 教授 (00162454)
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研究分担者 |
松原 輝彦 慶應義塾大学, 理工学部, 講師 (10325251)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 糖鎖プライマー / オリゴ糖 / 転移性がん細胞 / インフルエンザウイルス / C型肝炎ウイルス |
研究実績の概要 |
糖鎖プライマー法を用いたグライコミクスとして、細胞機能での糖鎖の役割の解明、タンパク質の翻訳後修飾の仕組み、およびオリゴ糖の活用としてウイルスの検出手法の開発に関する検討を行った。 これまでの本課題での研究により、糖鎖プライマー法を用いて肺腺がん細胞の遊走性と、硫酸化糖鎖や硫酸化糖鎖合成酵素の発現との関係が明らかになった。そこで、硫酸化糖鎖合成酵素GAL3ST3を過剰発現させた細胞をすることで、SM3型糖鎖と硫酸化T抗原型糖鎖が増加し、遊走性が増加することを明らかにした。 次に、タンパク質の翻訳後修飾に関する検討として、GalNAc-Ser, GalNAc-Thrを骨格に持つ2種類の糖鎖プライマーを用いて、ムチン型糖鎖のアミノ酸残基依存的な糖鎖生合成について検討した。胃がん細胞ではシアリルTn抗原型糖鎖、フコシルT型糖鎖、硫酸化T抗原型糖鎖、あるいはシアリルT型糖鎖の生合成が、糖鎖プライマーのアミノ酸残基に依存していた。また、無細胞系での糖鎖伸長反応でもアミノ酸の違いがムチン型糖鎖の糖鎖構造に影響を与えていることが示された。 インフルエンザウイルス (IFV) の検出法の一つである赤血球凝集アッセイに代わる新しい検出法が求められている。そこで、糖鎖プライマー法により得られたオリゴ糖を用い、それを基板および粒子に固定化することで新しい検出法の開発を目指した。MDCK細胞にアジド化糖鎖プライマーを投与することで、シアル酸含有糖鎖や硫酸化糖鎖などIFVと親和性が高い糖鎖が得られた。そのような糖鎖を固定化した粒子を作製し、HAおよびIFVとの凝集を目視で観察することが出来た。赤血球凝集アッセイと比較して、その感度は2~100倍に上昇した。糖鎖プライマー法で得られたオリゴ糖を固定化した粒子を用いた凝集アッセイは赤血球凝集アッセイに代わる方法となり得る可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
糖鎖プライマー法を用いたグライコミクスの確立を目指してきた。そのためには、糖鎖プライマー法により解析により、糖鎖が関与する細胞機能との関係を明らかにする必要がある。初期には、糖鎖プライマー法により得られる糖鎖伸長生成物の構造解析法を確立することを目指した。その後、その様な技術を元にして、転移性のがん細胞やC型肝炎ウイルス感受性細胞、幹細胞での糖鎖解析を実施してきた。それらの成果として、本年度では、特に肺腺がん細胞の転移性に関わる糖鎖を特定し、また、ムチン型の糖鎖の伸長における糖鎖結合部位のアミノ酸の種類が依存していることを見いだした。それに加えて、インフルエンザウイルスの検出に使える糖鎖の作製を行い、ウイルスの検出に利用出来るようになった。これにより、糖鎖プライマー法により得られた糖鎖の活用技術への展開が可能になった。そのような成果により、当初より期待していた糖鎖プライマー法の利点を生かしたグライコミクスの成果が得られてきている。
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今後の研究の推進方策 |
転移性のがん細胞での糖鎖機能の解析を継続して行なうことで、肺腺がん細胞での転移性に関わる硫酸化糖鎖の役割を明確にする。また、硫酸基転移酵素の基質特異性を糖鎖プライマー法により作製したオリゴ糖を用いて解析する。C型肝炎ウイルス(HCV)感受性細胞での糖鎖合成遺伝子の強制発現を行い、発現する糖鎖とHCVのゲノム複製やHCVに対する感受性の評価を行う。また、昨年度より開始したインフルエンザウイルスの検出に使える糖鎖の作製を継続して行い、多種類のIFVの検出への利用について検討する。また、ムチン型の糖鎖プライマーを用いて、糖鎖タンパク質型糖鎖の生合成の仕組みの解明を行なう。これまでに、タンパク質レベルので解析が難しい現状から、明確な知見が得られていなかった、糖鎖修飾部位としてセリンとスレオニンの違いによるムチン型の糖鎖の構造の違いは殆ど明らかにされていない。糖鎖プライマー法の利点を活かして、その解明を行なう。さらに、グリコサミノグリカン型の糖鎖プライマーを用いて、グリコサミノグリカン型のオリゴ糖鎖の獲得を目指す。特に硫酸化されたデルマタン硫酸型のオリゴ糖鎖の獲得を目指す。このようなオリゴ糖鎖は、グリコサミノグリカン分解酵素の基質となる。そのような分解酵素の基質となるオリゴ糖の合成を糖鎖プライマー法により行なう。得られたオリゴ糖の分解酵素に対する基質特異性を明らかにする。これによりグリコサミノグリカンオリゴ糖の診断基質としての可能性について検討する。 以上の様な検討を行う事で、転移性がん細胞、HCVの感染、タンパク質への糖鎖修飾などの糖鎖生物学への貢献、あるいはインフルエンザウイルスの検出や糖分解酵素の検出などの糖鎖活用技術への展開の可能性を実証する。これにより、糖鎖プライマー法をグライコミクスにおける基盤技術として確立するという当初の目標を達成する。
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