研究課題/領域番号 |
23241077
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研究種目 |
基盤研究(A)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
宮下 直 東京大学, 大学院農学生命科学研究科, 教授 (50182019)
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研究分担者 |
角谷 拓 独立行政法人国立環境研究所, 生物・生態系環境研究センター, 研究員 (40451843)
東 淳樹 岩手大学, 農学部, 講師 (10322968)
深澤 圭太 独立行政法人国立環境研究所, 生物・生態系環境研究センター, 研究員 (90617101)
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キーワード | 生物多様性評価 / ニッチモデル / 食物網 / 景観構造 / 温暖化 |
研究概要 |
(1)高次捕食者である鳥類を対象に、過去の分布状況を考慮しながら生息環境の保全および再生の重要地域を特定することを目的に、減少の著しい絶滅危惧種を対象に過去および現在の分布を整理し、場所ごとの「喪失種リスト」を作成した。また、鳥類の分布予測の際の環境条件として利用するために、全国スケールで植生図を土地利用に変換するための、凡例の標準化を実施した。 (2)距離依存の移動分散と不均一な環境下での生残を考慮した繁殖分布パターン変化の確率モデルを構築し、高次捕食者サシバを対象にパラメータ推定を行った。その結果、サシバは渡りに象徴される高い飛翔力を持つにもかかわらず、繁殖地は25年で20km程度しか拡大していないことがわかった。また、生残確率に関連が深い要因として水田と森林の境界長が採用され、サシバが複合環境を好むという既存の知見と矛盾ない結果が得られた。 (3)餌資源依存型で高次捕食者であるサシバを対象に、繁殖北限域である岩手と繁殖南限域である福岡において給餌特性について調査した。利用する餌資源量に関しては、CCDカメラを設置した巣における給餌動物の記録、種または分類群の同定、推定重量を計測した。岩手は給餌回数、給餌重量ともに両生類の割合が高いのに対し、福岡は昆虫類・多足類の割合が高く、総給餌量が岩手よりも低いために、繁殖効率が低いことが明らかとなった。今後想定される温暖化によって、繁殖南限域でのサシバの繁殖成績がさらに悪化することが懸念される。 (4)サシバの減少が著しい島根県において、調査候補地を選定することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高次捕食者の分布予測および環境変動の影響評価という最終目標に向けて、研究を順調に進めている。分布の推定計算に要する時間制約がネックであったが、現実的な時間で推定できる方法を見つけることで課題を乗り越えることができた。 サシバの給餌動物については、記録が繁殖南限域の福岡で成功したことは評価できるが、CCDカメラの設置をサシバの渡来前にする必要があるため、前年巣を利用しないケースが多く、現在のところ1巣でしか記録がとれていない問題がある。
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今後の研究の推進方策 |
全国的に標準化された環境変数を全国的な鳥類の分布予測モデルに組み込む。また、分布変化の将来予測を可能にするために、土地利用の将来変化シナリオの構築のためのデータ整備および解析にとりくむ。さらに、過去の分布状況を考慮しながら生息環境の保全および再生の重要地域を特定するための手法を開発し、高次捕食者である鳥類に適用する。 今後は同様の推定を日本の繁殖鳥類184種に対して実施する。そして、推定された種ごとのパラメータ値がどのような種特性(繁殖特性や食性)と関連が深いのかを明らかにすることで、変動環境下における高次捕食者の分布変化の特徴を明らかにする。また、推定されたモデルによる将来予測を行い、人為的な環境変動が上位捕食者の存続可能性に与える影響を定量的に評価する。 サシバの餌資源については、画像上で計測した体長をもとにした重量で評価しているが、分類群によってエネルギー用や消化に伴う同化率等が異なることが考えられるため、カロリーメータによるエネルギーを算出することを予定している。また、今後進行が予想される地球温暖化に伴うサシバの繁殖への影響を考察するために、サシバの繁殖北限域における地域で、サシバの餌動物の発生消長を調査する予定である。 サシバの分布規定要因の解析については、秋田県、岩手県、栃木県、千葉県、愛知県、島根県、福岡県のデータを収集し、餌資源や農地整備、放棄との関連を明らかにする予定である。
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