研究課題/領域番号 |
23242001
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
清水 哲郎 東京大学, 人文社会系研究科, 教授 (70117711)
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研究分担者 |
会田 薫子 東京大学, 人文社会系研究科, 准教授 (40507810)
田代 志門 昭和大学, 医学部, 講師 (50548550)
竹内 聖一 立正大学, 文学部, 講師 (00503864)
霜田 求 京都女子大学, 現代社会学部, 教授 (90243138)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 臨床倫理 / 臨床死生学 / 意思決定プロセス / 人工的水分・栄養補給 / end of life care / 緩和ケア / 高齢者ケア / 医療・福祉 |
研究概要 |
① 前年度に行った臨床倫理検討システムの見直しに加えて、様々な問題を検討する際のより詳細な考え方の拡充と、医療・介護従事者の研修に適するカリキュラム化の検討を行った。その成果を清水+臨床倫理プロジェクト著『臨床倫理エッセンシャルズ』(2013年春版)として刊行し、本年1月以降のセミナーで活用し、使い勝手の検討を行った。 ② 前年度に清水と会田が高齢者への人工的水分・栄養補給導入をめぐる意思決定プロセスについてのガイドライン案作成に参加し、本臨床倫理プロジェクトの研究成果を反映させたが、これがほぼ原案通り日本老年医学会のガイドラインとして承認された(平成24年6月)。このことと並行して高齢者ケア・介護チームおよび本人・家族の意思決定チームは、老年看護専門看護師グループ(全約45名中35名の参加)等の全面的協力を得るなど、臨床現場の広範な支持と期待を得つつ、このテーマに特化した本人・家族の選択を支援する「意思決定プロセスノート」の再改訂を行い、『高齢者ケアと人工栄養を考える―本人・家族の選択のために』(改訂第3版)を刊行した。これは現場からの関心も高く、冊子送付希望が沢山きており、現在、協力者たちによって試用中である。また、これを出発点とする包括的・継時的意思決定プロセスノート構想も進んでいる。 ③ がん治療・緩和ケアチームは、国立がん研究センターや爽秋会岡部医院等の協力者と、人生最期のケアないし看取りケアについての意見交換を進めた。 ④ 臨床倫理セミナーを各地で開催し、臨床倫理システムとその教育カリキュラム化の成果を現場に還元するとともに、上記テキストの更なる改訂のために、参加者の使い勝手を調べつつある。セミナーは、本研究チームが主催、共催ないし後援を行ったものだけで12回(砺波、札幌(3回)、名寄、金沢、盛岡、東京、松山、大阪、飛騨高山、岡山)、延べ1700名の参加者があった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
① 実績の概要で言及した項目は、当初の計画以上に進展している。臨床倫理の事例検討に関する『臨床倫理エッセンシャルズ』テキスト、およびそこに含まれる事例検討シート等の本研究プロジェクトの研究成果は、社会的に公表され、現場で役立ち、臨床倫理に関する「共同の意思決定」、死生学に関する「生命に対する人生の優位」といった考え方が影響を及ぼし始めている。臨床倫理セミナーに参加を希望する医療者が各地で会場の収容人数を越え、断らなければならなくなっていることも、本研究が実践で役立つ結果を出していることを示している。 ② 本人・家族の意思決定を支援する「意思決定プロセスノート」の高齢者ケアにおける人工栄養の選択に特化したものも、改訂を重ね、臨床現場の実践家からみても実用の域にたっしていることは、使用したいという希望が次々に寄せられていて、本研究費以外の経費をつかって増刷しなければならなくなっていることからも、社会で活かされることを目指す実践的研究である本プロジェクトの活動の進展が、当初の計画以上であることが認められるであろう。 ③ 他方、臨床倫理のリーダーシップ養成については、当初の予定通りは進まなかった。また、救急救命、生活習慣病への取り組みは予定している担当者が産休・育休のため先送りになっている。 この点で当初予定より遅れている点を勘案し、全体としては、「おおむね順調」と自己評価をした。
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今後の研究の推進方策 |
① 臨床倫理システムについて、研究成果と、その教育カリキュラムへの反映とを区別してまとめる必要がある。これまでは双方を併せて『臨床倫理エッセンシャルズ』として刊行し、セミナーのテキストに使ってきたが、理論的に批判に耐えられることと、初心者にも分かり易い内容であることとは両立が難しい。次年度には、セミナーにおける研修用に特化したテキストと、臨床倫理学としての成果を体系的に示す著作とを分離して作成したい。 ② 高齢者ケア:人工的水分・栄養補給をめぐるガイドラインの普及と本人・家族のプロセスノートの普及とを併せ行い、ここから高齢者ケア一般について社会的に効力のある発言へと展開していく。現在、本プロジェクトの中で一番現場への影響力を発揮している部門なので、ここを進めることが、他の領域における今後の活動のモデルとなろう。 ③ がん治療・緩和ケアの領域も、それなりにこれまで貢献してきた領域であり、ここにおける現場への発信に力をいれることと、さらに他の領域へと担当領域を広げることに力をいれたい。そのためには、現場の協力者の掘り起しが肝要である。これまでも、現場の実践家の協力を得て、本プロジェクトを進めてきたが、新しい医療・介護の場面に取り組むためには、その現場の協力が必須である。
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