本研究は、チベット=ビルマ諸語の史的研究に重要な位置を占める羌系と彝系の諸言語について、現代方言のデータを集め、歴史上の死語である西夏語を含む文献記録に見える言語資料との比較を行い、その類型構造の歴史的発展を跡づけるべく分析を行った。現地調査によるデータを整理して類型構造を明らかにするとともに、文献解読の成果を参照して歴史的発展の諸相を解明すべく実証的考察を行なった。研究作業を進めるにあたり、チベット=ビルマ諸語の研究者が蓄積してきた知見およびデータを連携・統合して、相互利用を可能にするシステムの基盤を整備し、漢語を含む周辺の諸言語にまで視野を拡大して比較対照を試みた。[1]中国四川省にて未記述の羌語方言についてのデータを収集した。[2]ムニャ語と交流関係のあるチベット語カム方言を比較して文法構造の発展における影響の有無を検証した。[3]《西番譯語》に記録のあるリュズ語について、現地調査に基づき現代語の文法構造の全体像を概述してその特色を明らかにした。[4]西夏語の音韻体系の復元の基本問題を実証的に議論する基盤として、基本資料である《番漢合時掌中珠》のデジタル化作業を進めた。[5]《藏緬語族語言詞彙》のデータ化を完了し、日英中国語で検索可能な索引を整備した。[6]データベースの相互利用と民族文字のユニコードへの登録と仕様について、国内外の関係機関の責任者と協議した。[7]チベット=ビルマ諸語と漢語との対応関係を探る上で不可欠の、上古漢語の音韻グループと中古漢語の音韻地位を検索できる索引データを整備した。また本研究の総括として、チベット=ビルマ諸語の名詞句を分析した論集『シナ=チベット系諸言語の文法現象1 名詞句の構造』を刊行したほか、類型構造の史的発展の諸相を明らかにすべく研究範囲をさらに広げ、ひきつづき使役の構造についても論集を刊行する予定で編集を進めている。
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