研究課題/領域番号 |
23242056
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
関根 康正 関西学院大学, 社会学部, 教授 (40108197)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ストリート / 移民 / トランスナショナリズム / 新たなローカリティ / 共同性 / アンダークラス / 宗教空間 / 周辺化 |
研究概要 |
研究代表者関根は、西北ロンドンのグジャラート系移民集住地区アルパートン地区におけるヒンドゥー寺院建設活動とその結果を中心に継続調査を行った。今回はこの集中調査に加えて、ロンドンの他のヒンドゥー教徒の集住地区の寺院についても広域的に調査を行った。一つは、グジャラート系移民の間での複数の系統のスワミナヤン寺院との比較、もう一つはロンドンに存在するグジャラート系以外のヒンドゥー寺院との比較。特に1980年代後半から急増したスリランカ・タミル系移民の宗教活動が活発で、それとの比較を行った。このような比較の眼差しをイギリスの多文化社会的文脈の中に置くことで、アルパートン地区に4年前に新造されたサナータン寺院が何を創造したかを、パースの記号学のアブダクション概念を手がかりに分析した。言い替えれば、寺院空間の創出は、様々な記号のブリコラージュ的関係づけの集積で生じる「敷居(threshold)」の発見であり、そこが古い移民世代と新しい移民世代との蝶番になって移民社会を駆動していることが見て取れる。関根はまた日本国内のストリート現象として新大久保と生野のコリアタウン調査と渋谷、原宿を中心にしたグラフィティの調査を実施した。これらのストリート現象も敷居論や記号論をもって分析することで、その真の意味を解読できることが明らかにされた。そこには、受動的主体性の表現行為の挑戦的形姿があると見なせるのである。 今年度は、以下に列記する研究協力者の調査を集積できた。和崎はカメルーン・ヤウンデのストリートとローカリティ、内藤はスペインの巡礼空間の内的観察、野村は認知症老人の置かれたヘテロトピア性、南は原爆投下を経験した広島という断絶と継続を織り込んだ都市空間の記憶構造、鈴木は長岡の青果物流通の「ストリート化」状況、朝日は大阪と長崎でエスニック・コミュニティの形成過程、ギルはマイノリティ化する福島原発「難民」の現実。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究開始から代表者関根は毎年英国とインドでの調査を継続し、三年目で重要なデータ蓄積とそれに基づく相当の理論的深化をみた。また研究協力者の現地調査蓄積も順調に進んでいる。5年プロジェクトの中間年までの調査研究蓄積をもって、残りの2年間をさらに研究進化に使えば、確実に独創的な成果を生み出せるとの見通しと確信を得ている。 計画以上に進んでいる理由は以下のようである。本研究の研究交流の場として国立民族学博物館での共同研究会を組んでいるが、それが極めて有効に働いて、各自の調査報告と討議の機会になり、それぞれが刺激を受け、本研究にとって枢要な「ストリート化」という鍵概念がその意味内容に明確な形をとり始めた。特に今年度は臨床心理学・精神医学と人類学との対話も相互発表で実施され、精神、身体、環境が相互に入り組んでアフォードする再帰的なダブルコンティンジェンシーが「ストリート化」概念の深さを測定させた。 ストリート化は、明らかに、受動的能動性の生成論を表現する概念であり、ベンヤミンの敷居論、フーコーのsubjugated knowledgeあるいはヘテロトピア、ドゥルーズの「マイナー性への生成変化」、ブローデルの長期持続、レヴィ=ストロースのブリコラージュ、そしてパースの記号学のアブダクションなどと密接に関連することが確度高く明らかになってきた。その意味で現代の混迷する社会、すなわちその成員である私たちにとって、「ストリート化」の様相の解明の重要性が確信されてきている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究プロジェクトは残り2ヵ年であるから、現地調査を進めながらも、本研究の目的を満たす結論に向けた省察を開始し最終年度のまとめに向けて後者に重心を移していく予定である。そのために、関根および研究協力者はさらに国内外のそれぞれの調査地での現地調査のデータ収集に励むとともに、その記述と理論を含むエスノグラフィーを書くことに向けて研究を進めていく。ネオリベラリスト資本主義の席巻によって、ますます先行き不透明な現代社会の混迷状況(国内の大震災以降の再建過程を阻む諸要因やグローバルシティに流入する下層移民の直面する困難)は、疑いなくトランスナショナルな共通問題状況である。したがって、本研究プロジェクトが目指す、「ストリート・ウィズダムと新たなローカリティの創発」に関する国内状況と海外状況をつなぐ形での独創的な記述と理論の成果は、現代の真の社会的ニーズに応えるものである。 具体的には、ローカリティ現象を含む広義のストリート現象のなかに「ストリート化」概念を豊穣にする具体事例をさらに調査・集積するとともに、国立民族学博物館および本研究プロジェクトによる共同研究会においては集積データを相互比較する横断的作業によって、その特徴を明確化していきたい。そこではいくつかのストリート・エッジの比較ユニットを想定している。1)宗教事情関係、2)被災民関係、3)マイノリティ・移民社会関係、4)社会的弱者関係、5)地場産業関係などである。
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