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2014 年度 実績報告書

ストリート・ウィズダムと新しいローカリティの創発に関する人類学的研究

研究課題

研究課題/領域番号 23242056
研究機関関西学院大学

研究代表者

関根 康正  関西学院大学, 社会学部, 教授 (40108197)

研究期間 (年度) 2011-04-01 – 2016-03-31
キーワードストリート / 移民 / トランスナショナリズム / 新たなローカリティ / 共同性 / アンダークラス / 宗教空間 / 周辺化
研究実績の概要

関根は、UKで南アジア系移民社会の有り様を宗教空間の構築という現象を中心にしながら、継続調査を実践した。British Asiansと行政的にくくられている人々の内情は一枚岩ではなく、大きくは、植民地時代の労働移民としてパンジャブ系シク教徒、東アフリカ経由のグジャラート系ヒンドゥ一教徒、労働移民バングラデシュ系ムスリム、スリランカタミル系ヒンドゥー教徒などに分けられる。またその内部もカース卜や宗派などで分節される。こうした宗教集団間の分節は、新たなネオリベ社会の流動の中で相互の競争意識に支えられて進展している。特に、ロンドンのアルパートン地区の南アジア系移民の集住地区の変化を継続的に参与観察した。寺院建設という宗教空間の構築と維持についての追加調査を行った。巨費を投じた壮麗なShree Sanatan Hindu Mandirが完成を見てから4年あまりがたつが、その大きな社会的影響を確かめた。また、以下のように研究協力者の成果を得た。朝日は、東京コリアンタウンの表象と実態のずれがそのまま共存しながらストリートの盛衰が起こる様相を描写。トム・ギルは、福島県飯館村における福島第一原発事故以降の住民生活に関する調査を継続し、生活基盤そのものがストリート化してしまった生活再建を調査。小田と村松も、宮城県気仙沼市における仮設住宅での地域の再創造の過程を記述し、震災前後での生活の継続性と非継続性を論じた。鈴木は、キャンディ市の路上の仏堂建設という宗教実践を、ネオリベ経済の進展の中でのアイデンティティの模索としてとらえた。根本はインド社会の最周辺化されたダリトの間でストリート僧として仏教を生きる佐々井秀嶺に学びつつ、ストリート研究におけるコミットメントの問題に肉薄した。西垣はモンゴルのウランバートルで遊牧民の定住と遊動を組み合わせた生活のブリコラージュを研究した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

本科研プロジェクト4年目が修了したが、3年目までの明確な研究土台の上に、本年度はさらにストリートの流動の中にローカリティを創発するという本研究の狙いがより深く考察できた。科研と民族学博物館の共同研究会の組み合わせによる研究成果の共有は今年度も効果的に行われ、研究代表者と研究協力者との調査成果のすりあわせと理論的考察の展開を見た。特に、ローカリティがいかに創出されるかを考える時、アルジュン・アパデュライによるローカリティと近傍(neighborhood)との区別は示唆的である(Appadurai 1996)。アパデュライは近傍とローカリティの相互構成を、歴史的かつ弁証法的な関係として捉えている。しかし、ドゥルーズ的転回を経由したストリートの人類学にとって、ローカリティの創出の探求は、反弁証法的な思考(関根2009:546)を、つまり近傍の生産を差異化の運動として捉えるような方向へと深化させている。近傍の連鎖の中でいかにローカリティを創出することが可能だろうか。それは近傍の生産からローカルな主体性の生産への弁証法的な回帰でもなければ、大いなる生命の流れにおいて場が非‐場の連鎖へと溶解していくことでもない。その最後の突破はパースの記号学が有用との見通しもすでに持っている。それによって、ローカリティと近傍の議論を深化させて、ストリート人類学の探求の焦点の所在を、柄谷行人の概念で表すと、「遊牧的遊動性」ではなく存在論的な「狩猟採集的遊動性」にあることが明確化できそうである。それは、本科研の研究成果の中軸が見えてきたことを意味する。

今後の研究の推進方策

本研究は最終年度を迎えた。この最終年度も代表者及び研究協力者がさらに各自の国内外での現地調査を実施するとともに、成果報告に向けて総括討論の研究会も開催する。それぞれの調査研究から浮かび上がってきた、ストリート・ウィズダムと新たなローカリティの創発についてのデータと考察を、そうした研究会の場でつきあわせ研究目標についての理論的展望を紡ぎ出す予定である。
グローバル金融資本主義とネオリベラリズムが結合する形で、現代社会は未曾有の流動世界に変貌しつつある。少数のエリート移民と膨大な下層移民が越境的に移動し始めている。この流れは激しさを増すばかりであろう。9割の民が周辺化される時代が到来しつつある。本科研は、その未曾有の事態に備える必要がある自らも含む普通の人々のために企画された。その備えのためのストリート・ウィズダムと新たなローカリティの創発に関する知見を探求してきたのである。その意図のために、本科研の成果は一般書籍として世に問うことが必要であると考えている。すでに社会的周辺を生きてきた人々のブリコラージュ、その近傍の繋ぎ方と生活空間構築の技が、私たちの教師なのである。それを社会的な共有財産にするところまで達成したい。

  • 研究成果

    (8件)

すべて 2015 2014 その他

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (4件) 図書 (2件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] ある危機からの構築に向けて―「21世紀の日本文化人類学会の国際化とグローバル化」に関する問題提起2015

    • 著者名/発表者名
      関根康正
    • 雑誌名

      文化人類学

      巻: 79-4 ページ: 469-479

    • 査読あり
  • [学会発表] 排除と包摂を超えて:南アジア社会の文脈から学ぶ、反差別認識論から脱差別実践論への転回2015

    • 著者名/発表者名
      関根康正
    • 学会等名
      関西学院大学先端社会研究所全体会
    • 発表場所
      関西学院大学先端社会研究所
    • 年月日
      2015-02-10
  • [学会発表] The challenge of street anthropology: Hindu temple construction as street-edge phenomena under globalization2014

    • 著者名/発表者名
      Sekine Yasumasa
    • 学会等名
      International Union of Anthropological and Ethnological Sience
    • 発表場所
      Makuhari,Chiba
    • 年月日
      2014-05-16
  • [学会発表] 人間にとっての道:ストリート・エッジを手がかりに2014

    • 著者名/発表者名
      関根康正
    • 学会等名
      こども環境学会大会2014・分科会E
    • 発表場所
      京都工芸繊維大学
    • 年月日
      2014-04-27
  • [学会発表] パースの記号学でみる再帰的空間としての移民寺院・歩道寺院2014

    • 著者名/発表者名
      関根康正
    • 学会等名
      科研研究会(基盤A:大杉高司代表)
    • 発表場所
      一橋大学
    • 年月日
      2014-04-01
  • [図書] 2014年度チャペル講話集(関根康正「友だち、この微妙な存在」)2015

    • 著者名/発表者名
      関根康正
    • 総ページ数
      83 (42-46)
    • 出版者
      関西学院大学社会学部
  • [図書] RoutledgeHandbook of Graffiti and Street Art,London(Sekine,Y., and Yamakoshi,H.,"Street Art/Graffiti in Tokyo and surrounding districts")2015

    • 著者名/発表者名
      JeffreyIanRoss(ed.) Yasumasa Sekine, Hidetsugu Yamakoshi,MinnaValjakka, Roland Kramer, Peter Bengsten, Stefano Bloch, Dan Schwender, Maia Morgan et. al.
    • 総ページ数
      528 (Chapetr 26)
    • 出版者
      Routledge
  • [備考] ストリート・ウィズダムと新たなローカリティの創発に関する人類学的研究

    • URL

      http://streetwisdom.blog.fc2.com/

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公開日: 2016-06-01  

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