研究課題/領域番号 |
23243004
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
常本 照樹 北海道大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (10163859)
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研究分担者 |
山崎 幸治 北海道大学, アイヌ・先住民研究センター, 准教授 (10451395)
辻 康夫 北海道大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (20197685)
山下 竜一 北海道大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (60239994)
加藤 博文 北海道大学, アイヌ・先住民研究センター, 教授 (60333580)
北原 次郎太 北海道大学, アイヌ・先住民研究センター, 准教授 (70583904)
長谷川 晃 北海道大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (90164813)
佐々木 雅寿 北海道大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (90215731)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | アイヌ民族 / 先住民族 / 憲法政策学 / アイヌ政策 |
研究実績の概要 |
平成26年度は、昨年度行った研究の中間取りまとめを踏まえ最終とりまとめに必要な補足的調査及び研究の一層の深化を図り、その内容をアドバイザリ・ボード・メンバーを中心とした共同研究者と継続的に検証するため、理論研究及び法制度研究を中心に9月にメロディ・マッケンジー教授(ハワイ大学ロースクール先住民法研究センター長)らを本学に迎え、アメリカ先住民法制の中でも特異な地位を占めるハワイ先住民法との比較の視点を踏まえたワークショップを開催し、10月に林修澈教授(台湾国立政治大学原住民族研究センター長)らを本学に迎え、台湾原住民族法制との比較の視点を踏まえたワークショップを開催した。さらに、欧米型の先住民族コンセプトとヨーロッパ型のナショナル・マイノリティ・コンセプトとの対比という本研究の中心的関心の一つを深めるため、12月にオックスフォード大学において先住性概念に関する日英比較ワークショップに参加したほか、3月にはオタワ大学人権研究センターに招かれ、カナダ先住民の特性を視野に入れた比較研究を行った。 資料等及び関係情報の収集並びに先住民族文化の伝承・発展に関する実践的課題に関する調査・研究については、定期的に内閣官房アイヌ総合政策室及び文部科学省・文化庁を訪問・接触して我が国におけるアイヌ民族との共生社会の実現を目指した諸施策の企画・実施状況を調査したほか、11月にイタリアを訪問し、ローマ国立先史・民族博物館及びフィレンツェ大学人類学民族学博物館におけるマイノリティ文化に関する情報発信・文化伝承支援活動等を調査したほか、2月に台湾行政院原住民族文化園区を訪問し、わが国において企画されている「民族共生の象徴となる空間」と多くの共通点を持つ施設の可能性と課題を現地で詳細に調査したほか、ナショナル・センターと地方の先住民族コミュニティの微妙な関係について豊富な事例を踏まえた調査を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、日本の先住民族であるアイヌ民族固有の文化を継承発展させ、生活実態に即した政策を実現するために、憲法政策学的見地から日本とアイヌ民族の実状に適合した先住民族政策、すなわち「日本型先住民族政策」及びその立法化の可能性を探ることを研究目的とし、そのために政策の憲法への根拠付け、憲法的に要請される政策とその現行法体系との適合性、政策対象者の決定方法(アイヌの個人認定)、新規立法に伴う諸問題等の考察を行うこととしている。また、アイヌ民族の主体的参加はもとより、実務担当者の参加を重視するとともに、英米型先住民族概念に限らず、ヨーロッパ型ナショナル・マイノリティ概念の有用性も視野に入れることを特色としている。 これまでに北海道アイヌ協会を中心とするアイヌ民族との協同のもとに研究を進めてきたほか、内閣官房アイヌ総合政策室、北海道環境生活部アイヌ政策推進室、文化庁伝統文化課などのアイヌ政策担当実務者の密接な協力を得て資料を収集し、新規立法に関する諸課題、政策企画における財政課題、政策実施に係る国と地方の関係、具体的な文化伝承のあり方などの検討を進めてきた。また、諸外国の先住民族をテーマとする博物館等及びその学芸員との意見交換、さらに、アドバイザリ・ボード・メンバーを中心とする諸外国の関係研究者とも実質的な共同作業を進めてきている。 そのなかで、固有の権利の主体としての先住民族を中核として構成される英米型の先住民族政策とは異なる、日本とアイヌ民族の実状に適合した先住民族政策のあり方の基盤を確立する本研究の目的が概ね達成されつつあるということができる。 他方、研究成果及び諸資料をアーカイブ化することについては、研究の遂行に密接に協力している北海道大学アイヌ・先住民研究センターの資料アーカイブ作成との関係の一層の整理を進める必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
本研究も最終年度に入り、最終的なとりまとめの作業を行うとともに、若干の事項について補充的な調査・研究を行うことになる。本研究と並んで国において進められている総合的アイヌ政策の推進については、昨年6月の閣議決定において2020年の「民族共生の象徴となる空間」の開設が正式に決定されたことにより、関連施策の具体的検討に一層の拍車がかかったということができる。文化復興のナショナル・センターとしての象徴空間の機能は、アイヌの民族的アイデンティティの拠り所となることであり、日本国憲法13条の「個人の尊重」に基づくアイヌの人々のアイデンティティの選択の保障にわが国における先住民族政策としてのアイヌ政策の基盤を求めるべきとする本研究の成果が反映していると言うことができ、本研究の目的も着実な実現をみているといえる。 しかし、その反面、政策の具体化によって細部の明確化が進むに伴い、それに対する批判や疑問も強くならざるを得ない。これに対して、「日本型」先住民族政策の正当性・妥当性をより説得的に提示できるように研究成果をとりまとめ公表することが求められる。そのためには、理論的なインテグリティはもとより、個々の施策について諸外国との適切な比較に基づいた具体的提言が必要となる。 さらに、アイヌ関連施策の中でも、全国の大学・博物館等に保管されているアイヌ人骨及び副葬品の返還と研究の可能性をめぐる問題が深刻な課題として注目を集めるようになっているが、この問題に関する先行国であるアメリカにおいては先住民部族に対する返還等が原則になっているところ、アイヌ民族の場合にはその基盤がなく、これについても「日本型」の施策を検討しなくてはならない。残されている時間でこの問題を検討する方向性を定めると共に、次の研究課題として継続的・発展的に検討することにしたいと考えている。
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