研究課題/領域番号 |
23243008
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
真山 全 大阪大学, 国際公共政策研究科, 教授 (80190560)
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研究分担者 |
洪 恵子 三重大学, 人文学部, 教授 (00314104)
新井 京 同志社大学, 法学部, 教授 (10319436)
古谷 修一 早稲田大学, 法学学術院, 教授 (50209194)
田中 利幸 法政大学, 法学部, 教授 (60114980)
森川 幸一 専修大学, 法学部, 教授 (70134434)
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研究期間 (年度) |
2011-05-31 – 2015-03-31
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キーワード | 国際法 / 国際刑事法 / 国際犯罪 / 国際刑事裁判所 / 侵略犯罪 / 集団殺害犯罪 / 人道に対する犯罪 / 戦争犯罪 |
研究概要 |
国際刑事裁判所規程の2010年改正により挿入された侵略犯罪関係条文について、2011年度は基本的な研究を実施した。すなわち、歴史的展開や概念の検討である。これを受けて、2012年度にあっては、より個別的な問題の検討に入った。管轄権行使条件、国家による侵略行為の定義、国家による侵略行為に関与する個人の侵略犯罪の定義、国家の行為への個人の関与の形態、国連安保理事会と国際刑事裁判所の関係、安保理事会による付託、及び、国際刑事裁判所規程の刑法総則規定の分析がそれである。 かかる個別的な問題の検討は、諸外国も実施しているところ、日本政府としてもその動向を注視しているドイツの検討に関して、その中心となっているケルン大学のクレス教授を日本に招聘して研究会を2012年度に開いた。これは、本科研における最初の本格的な外国人研究者招聘研究会であったが、そこでは、個別的論点に関する双方の解釈の相違を含め有益な議論がなされた。 加えて、研究分担者や研究協力者ではないが、日本外務省国際法課員が研究会に参加しており、侵略犯罪関連条文を加えられた国際刑事裁判所規程改正を日本が受諾するかの政策的判断の基礎的な材料を彼らはこの研究会から得ている。本科研研究は、完全な学理的研究ではなく、実務に一定の影響を与えてきたといえるが、2012年度の個別的論点研究は、その前年の歴史的展開等の研究に比し、一層、実務に大きな影響を与えると考えられる。実際、本研究では、国家による侵略行為の一形態と、日米安全保障条約に基づく日本の行為の関係について本研究が提起した問題は、早晩、国会での取り上げられるような重要な問題である。 こうして、昨年よりもより具体的な研究となったこと、諸外国の研究者の招聘によりより知見が双方にとって深まったこと、及び、一層実務的な影響力を持つようになったことが2012年度の実績の概要及び特徴である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本科研は、順調に進んでおり、初年度の基礎的研究、2012年度の個別的論点の検討と展開している。また、前述の通り、予定していた外国研究者招聘も実現した。本科研は、本邦における侵略犯罪研究の主立った研究者の相当数が研究分担者や研究協力者として参加しているが、それらの専門家からしても非常に有用な意見の交換が見られる。この議論は、関係の大学院生にも開放しており、彼らのような次の世代の研究者にとってもまことによい研究の機会を提供しており、このことも併せて考えれば、達成度は相応に高い。 さらに、国際法学者と刑法学者がともに参加しているため、国際法と刑法の双方にまたがる国際刑事法の研究会として理想的であるが、2012年度から開始された個別的論点の研究にあっては、この双方の分野の研究者がそれぞれの立場から分析したことが特に有用であった。特に、国際刑事裁判所規程刑法総則分野の検討についてそのことがいえる。他方、昨年との重複もないわけではなく、特に、侵略行為及び侵略犯罪の概念についての検討は、昨年2011年度とある程度重なっていた。これは、やむをえない側面もあるが、重複回避を心がけ、より効率的に研究を実施しえたかもしれない。 本科研には、前述の通り実務家も参加している。外務省の貢献度は高いが、同様に参加している防衛省のそれはさほどでもない。本科研としては、国家安全保障的観点から防衛 省の見解を詳細に承知したいのであるが、さほどの知見がそもそも同省にはないようである。しかし、研究上これは不可欠であるので、人的関係をたぐって、防衛省においてより知見のある者を見つけて、招聘することも検討すべきであったと思われる。 研究分担者及び同協力者の研究報告には、院生のコメンテータを付するという新方式を2012年度からはじめたが、これは、研究者及び院生の双方にとって有益であった。
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今後の研究の推進方策 |
今年度2013年度及び次年度において、さらに個別的で細かい解釈論を進める予定である。2013年度は、日本が改正を受諾するために検討を要するものを、いわば一問一答式に分析することを開始する。国会でひろく議論することが必要であるが、従前の条約承認の議論はそうではない。国際刑事裁判所改正規程受諾の国会議論に有用な検討を今後したい。 この公表は、単行本の刊行のかたちをとることによってなされる予定である。このために、個別的論点の細部検討を研究分担者及び同協力者に割り振り、それぞれの論点を定期的開催される研究会で報告せしめることになる。また、本科研の付随的な目的である次代の研究者育成を踏まえて、若手院生優秀者にも検討対象の論点の若干を割り振って、単行本の一部執筆も首尾良くいけばまかせることになろう。なお、国内の関係学会においても本件科研の成果を発表することも考えており、関係学会との協議も近々に開始する。2013年度は、こうした方針にそった外国研究者招聘を再度予定している。日本がモデルと目し、また、過去に於いて違法な戦争をおこなったという歴史的な事情で共通し、且つ、国内法制度上の近い側面のあるドイツからの招聘を予定している。 このようにして、本科研の中盤が過ぎつつあるので、その成果の公表に向けての様々な措置を講じつつある。単行本刊行は、その一である。可能であれば、2013年度中に各構成論文の第一草稿があがれば上出来であり、それを目指すことになろう。
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