研究課題/領域番号 |
23243031
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
太田 宏 早稲田大学, 国際教養学術院, 教授 (70288504)
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研究分担者 |
石井 敦 東北大学, 東北アジア研究センター, 准教授 (30391064)
大久保 彩子 東海大学, 海洋学部, 講師 (40466868)
阪口 功 学習院大学, 法学部, 教授 (60406874)
眞田 康弘 法政大学, 公私立大学の部局等, 研究員 (70572684)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 国際漁業資源 / レジームコンプレックス |
研究概要 |
本年度の研究目的は、「脆弱性反応モデル」の本格的適用、有効性を説明する理論モデル、因果経路に関するプロセストレーシングによる考察、脆弱性反応モデルの概念枠組みの修正案の構築、制度間相互作用の管理に関する分析などである。脆弱性反応モデルの適応に関しては、南まぐろ保存委員会(CCSBT)と中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)の北委員会に関して、両委員会での参与観察と報告書の熟読によるプロセストレーシング方法によって、詳細に検討を加えた。また、脆弱性反応モデルの概念枠組みに修正を加えた上で、中間報告論文を国際関係学会(ISA)で報告した。これらの一連の作業を通して、主要漁業国についての脆弱性反応モデルの独立変数(競争力と柔軟性)では、研究対象主要国の最近の行動が説明しきれないことが判明した。その背景には養殖の世界的拡大とグローバル経済化の進展に伴い、特に外国船員の雇用に関する国内規制の強弱と国内市場のサプライチェーンが、主要国の国際漁業管理政策に影響を与える独立変数として重要であることが明らかになりつつある。さらに、有効性の理論の精緻化作業の一環として、地球環境ガバナンス研究における今日に至るまでの研究成果をテーマとした国際的な協同作業企画に参加し、「有効性概念」の発展について小論文にまとめた。また、有効性を問題特性と問題解決能力により説明する既存のモデルを用いて南極海洋生物資源保存委員会(CCAMLR)の有効性を評価し、ISAで報告した。制度間相互作用に関しては、ある国際制度における非行動が他の制度のもとでの行動を引き起こす相互作用の形態をサメ類と鯨類の事例分析に基づき指摘したほか、制度間の不整合や齟齬に対するアクターの調整行動を相互作用の管理の視点を用いて分析し、環境政策・経済学会でシンポジウムを企画し報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の評価としては、第一に、これまでの研究成果を平成25年4月上旬に国際関係学会(ISA)で報告したことが挙げられる。内容的にも独自性と本研究テーマに関する研究の発展に十分寄与できるものである。また、「脆弱性反応モデル」という本研究で検討する基本的分析枠組みの提案者と学会での報告中及び報告後に意見交換ができたこと、来年度に実施予定の国際シンポジウムへの参加についての快諾も得られたことは意義深い。さらに、他の研究者や専門家との研究交流のためのネットワークを拡充できたことも積極的な評価に価する。第二に、本研究が対象とする地域漁業資源管理委員会(RFMOs)における参与観察も順調に進んでいて、各RFMOの公式文書を精査するというプロセストレーシングの方法とともに、レジームの有効性評価に関する定性的研究も進んでいる。第三に、レジームの相互作用に関しては、上述のISAの報告で、南極の海洋資源の保存に関する委員会(CCAMLR)の研究成果報告も実施したこと、ワシントン条約(CITES)の第16回締約国会議での参与観察を通して、まぐろ類の漁で混獲されるサメ類の審議内容を具に観察でき、レジーム間の相互連関に関する重要な知見が得られたこと。最後に、漁業資源関連の歴史的文献に関する公文書館等での資料収集とその整理がすすんでいることも挙げられる。 当初の計画日程から遅れていることや今後の課題としては、まず、総括的中間報告として位置づけられていた国際シンポジウムの開催が一年延期となったことが挙げられる。次に、研究成果の広報に関しては、25年の1月に公開シンポジウムを開催したものの、ホームページへの研究内容の書き込みとその公開が遅れている。これに関しては本年中には実施を予定している。また、定量的な有効性分析に関する研究の進捗がやや遅れていることも今後の課題である。
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今後の研究の推進方策 |
みなみまぐろ保存委員会(CCSBT)と中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)の北委員会(WCPFC-NC)について、「脆弱性反応モデル」の本格的適用を行い、平成25年4月の国際関係学会(ISA)で研究成果の中間報告を行った。平成25年度は、WCPFCやインド洋まぐろ類委員会(IOTC)などにも適用範囲を広げ、本研究の理論的枠組みの精緻化と事例研究による実証を試み、英文の投稿論文を本年度中に書き上げることを目標とする。また、今後の研究の展開を視野に入れながら、有効性指標の本格的評価と指標の再検討を行いつつ、有効性を説明する理論モデルの構築と因果経路に関するプロセストレーシングを、各々の地域漁業管理員会(RFMO)の公式文書などの深読みを通して引き続き実施して行く。さらに、研究目的I(RFMOsにおける意思決定要因の説明)、研究目的III(RFMOsにおける有効性の相違の説明)、研究目的IV(レジームコンプレックスのマッピング)の総合化の予備的検討、制度間相互作用の分析を行う。計画当初、総括的中間報告として位置づけた国際シンポジウムを26年度に延期して開催するが、その代わり本研究の中間的報告を総括する論文を、25年度中にISAで報告することを計画している。また、同年度には、米国ワシントンDCの日米研究機構(USJI)のセミナーでも本研究の報告を行う。 残りの研究期間では、米国等の公文書館での資料収集を実施する一方、引き続きIOTC、大西洋まぐろ類保存国際委員会(IATTC)、みなみまぐろ保存委員会(CCSBT)、大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)、WCPFCの年次会合での参与観察の実施を継続し、「グローバル・コモンズの悲劇」を繰り返している国際漁業資源に関して、上記のRFMOsの資源管理の成否を評価し、その要因を明らかにするという本研究全体の目的の達成を目指す。
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