研究課題
政府統計と商用データベースを組み合わせて、オープンイノベーションの実証分析に資するデータベース基盤の整備を進めてきたところ。NISTEP(文部科学省科学技術・学術政策研究所)において、技術的イノベーションに関するデータベース基盤の整備が進んでいるところなので、本研究プロジェクトにおいては、経済センサス(事業所・企業統計)や帝国データバンクなどの官民データを用いた日本全体の企業をカバーするデータベース基盤に焦点をあててデータベース構築を行ってきたところである。今年度の主な実績としては、以下のとおりである。(1)平成18年度の事業所・企業統計を基盤的な情報として、特許データ、帝国データバンク、全国イノベーション調査などの各種統計データと企業レベルの個票接続を行ったこと。米国と中国については、PATSTAT(世界の特許データベース)の企業出願人をベースとして、米国についてはダン・アンド・ブラッドストリートデータとの接続、中国については、GTA未上場企業データベースとの接続についてめどをつけたところである。(2)更に、これらのデータベースを用いて、電気通信分野における標準化とイノベーションエコシステムの関係、中国における知財担保融資制度に関する実証研究、企業における研究開発の多角化とオープンイノベーションの関係に関する研究など、各種実証研究を行い、論文や学会における口頭発表として公開した。(3)また、理論的な研究としては、日本的なオープンイノベーションの特徴として、ビジネスパートナーとの間の継続的な取引をベースとした連携とイノベーションパフォーマンスの関係についてモデルを構築し、エージェントベースシミュレーションで解析するための準備を行った。
2: おおむね順調に進展している
4年計画の3年目として、日本におけるデータベース基盤についてはほぼ完成させることができたので、全体として当初の計画通り研究が進捗しているということができる。ただし、米国および中国との国際比較については、それぞれの国の統計データへのアクセスが難航したことから、当初の計画から大幅な変更を強いられた。まず、米国については、当初、デューク大・ジョージア工科大における調査データの活用を予定していたが、現地における調査や分析の遅れによって、公開企業データ(ダン・アンド・ブラッドストリートデータ)を活用することとした。しかし、現状においてはオープンイノベーションに関する詳細な比較研究を行うことができないため、イノベーションにおけるハイテクベンチャーの役割にフォーカスした調査をスタンフォード大学と共同で進めてきた。また、中国については、国家統計局におけるイノベーション調査の個票データを利用することを予定していたが、2011年に日中関係の悪化したことも影響して、中国政府との共同研究がストップしている状況にある。そこで、やはりハイテクベンチャーに関する調査を清華大学及び復旦大学と共同で行う代替策をとり、研究の遅れはかなり取り戻した状況にある。なお、日本における実証研究、理論的研究は予定どおり進んでおり、米国と中国のデータがそろい次第、国際比較分析に取り掛かる予定である。
今年度は研究の最終年度として、データベース基盤を完成させ、公表可能な情報(複数データベースの企業間接続テーブルなど)についてはインターネット等で公開する。また、NISTEPにおける政府レベルのデータベース基盤との接続情報を明確にして、利用者における利便性の向上に資する。まず、日本におけるオープンイノベーションの実態について研究を進めながら、日本のイノベーションシステムの特徴について、米国と中国との比較を行ってきたところである。これまで行ってきた実証研究(技術分野別の産学連携の形態に関する研究、企業間の技術的連携とビジネスパートナーシップに関する相関分析など)を総合化し、国全体のシステム間比較を定量的に行うためにエージェントベースシミュレーションモデルを構築しているところである。今年度は、このモデルを完成させて、日本のイノベーションシステムの特性に併せたイノベーション政策の検討を行い、実証研究の取りまとめを行う。日本のイノベーションシステムの特徴としては、オープンイノベーションに関する主体(企業や大学など)間が長期的な連携を行っているところにある。一方で、米国においては、市場ベースの取引が活発であり、また中国においては、民間企業の技術力が低く、大学や公的研究機関の役割が大きいという特徴がある。米国と中国の実態については、現在進めている追加的なデータ収集(米国におけるスタンフォード大学との共同研究、中国における清華大学・復旦大学との共同研究)と実証分析結果も用いて、米国、中国と比較した日本型システムの特徴を明らかにするための理論枠組みを完成させる。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (7件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
Asia Pacific Business Review
巻: Volume 19, Issue 4 ページ: 578-599
10.1080/13602381.2012.673841