研究課題/領域番号 |
23244017
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
俣野 博 東京大学, 数理(科)学研究科(研究院), 教授 (40126165)
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研究分担者 |
舟木 直久 東京大学, 数理(科)学研究科(研究院), 教授 (60112174)
中村 健一 金沢大学, 数物科学系, 准教授 (40293120)
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キーワード | 非線形偏微分方程式 / 界面運動 / 平面波 / 安定性 / 無限次元力学系 / エルゴード性 / 国際研究者交流(フランス) / 国際情報交換(イタリア) |
研究概要 |
◎【退化拡散方程式の不安定多様体の研究】 退化した拡散方程式の解の挙動は,非退化型方程式の解の挙動と大きく異なることはよく知られているが,これまでその違いを力学系の立場から扱った研究は少なかった.本研究では,porous medium型の退化拡散方程式において,不安定平衡解 u=0 の不安定多様体のハウスドルフ次元が,たとえ有界領域の場合でも常に無限大であることを示した(文献1). ◎【拡散方程式の特異極限の研究】 Allen-Cahn型非線形拡散方程式においては,方程式内のパラメータを0に近づけた特異極限において不連続な界面が現れ,その運動が平均曲率流に支配されることが知られている.本研究では,古典解をより一般化した粘性解の枠組みでこの問題を論じ,粘性解に対してこれまで知られていた特異極限への収束のオーダーの結果を大幅に改良することに成功した(文献2). ◎【平面波の安定性の研究】 全空間上のAllen-Cahn型非線形拡散方程式に現れる平面波が,有界ではあるが必ずしも小さくない摂動に対して漸近安定であるかどうかを論じた.本研究では,先行研究の結果を大幅に拡張して,空間的に一意エルゴード的な任意の摂動を受けた界面が,時間の経過とともに平面波に一様収束することを示した(文献3). ◎【非線形拡散現象と微視的モデル】 舟木は,フェロモンにより自己組織的に集成する生物の挙動を記述する巨視的な交差拡散モデルを提示し,対応する微視的レベルの個体運動モデルを考えた.特異極限と流体力学極限の手法により,巨視的描像と微視的描像のつながりを与えた. この他,平面上で定義された縞状の非一様性をもつ2種類の非線形拡散方程式について,進行波の存在や,周囲に広がる波面の速度について詳しい研究を行った.研究はほぼ完成に近づいており,引き続き研究を行っている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
非線形拡散方程式に現れる進行波や界面運動については,全体的には満足のいく成果が得られている.しかし,個別に見ると,テーマごとの研究の進捗状況が,当初予定していた研究計画とは幾分順序が入れ替わっているケースがあるのは,やむを得ないであろう.また,新たな知見が得られたことにより,新しい方向に重点が移っているケースもある. より具体的に見ると,まず,交付申請書に本年度の研究計画として書いた3つのテーマのうち,3Dケーブルモデルの研究は,米国ミネソタ大学の森洋一朗氏と共同で進めてきた.当初は,この研究が一段落してから,これと関連するBidomainモデルに取りかかる予定であったが,最近の考察で,Bidomainモデルに関して,より実りが多い成果が得られる見通しがついたので,そちらに研究の重点を移した.Bidomainモデルは,生理学的応用の観点から3Dモデル以上に重要なので,この研究が順調に進めば,高い評価が得られると期待している.ただ,数学的に難しい問題なので,準備研究を鋭意進めている段階である.第二のテーマである双曲空間上の進行波面の研究については,大きな成果が得られており,論文の投稿準備段階に近づいているが,残っている問題を一つ解決してから論文投稿をしたいと考えているので,最終段階で保留中である. その一方で,本年度は,本研究の基本テーマに密接に関わる他の幾つかの問題について新しい発見が幾つか得られたので,今後しばらくは,それらの問題の解決に注力したい.
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今後の研究の推進方策 |
数理生理学の分野で重要なBidomainモデルに現れる平面波の安定性の研究は,引き続き行う.テーマの重要度を考えると,当初予定していた3Dケーブルモデルの研究よりも,関連テーマであるBidomainモデルの研究に今後は注力する予定である. 以前から進めていたノコギリの歯状をした2次元帯状領域に現れる進行波の研究を継続する.また,完成に近づいている上記の幾つかの研究(双曲空間上の進行波面の研究,および2次元縞状の非一様性をもつ拡散方程式に現れる進行波の研究)の完成を急ぐ. また,拡散方程式における界面運動に関する新しい研究方向として,「進行テラス解」と呼ばれる興味深いテーマについて新しい着想が得られたので,フランスの T. Giletti氏らと共同で研究を進める. 一方で,非線形熱方程式の解の爆発に関しては,ベキ型の非線形項をもつ単独方程式に関するフランスの F. Merle 氏との共同研究を継続するのに加えて,新たに,Keller-Segel系と呼ばれる連立方程式を拡張したモデルに現れる爆発現象ついて,同じくフランスの H. Zaag氏と共同研究を開始した.これらの研究を継続する.
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