研究課題/領域番号 |
23244017
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
俣野 博 東京大学, 数理(科)学研究科(研究院), 教授 (40126165)
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研究分担者 |
中村 健一 金沢大学, 数物科学系, 准教授 (40293120)
舟木 直久 東京大学, 数理(科)学研究科(研究院), 教授 (60112174)
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研究期間 (年度) |
2011-05-31 – 2015-03-31
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キーワード | 非線形偏微分方程式 / 拡散方程式 / 進行波 / 界面運動 / 自由境界問題 / 国際研究者交流(イタリア) / 国際研究者交流(中国) / 国際研究者交流(オーストラリア) |
研究概要 |
◎【双曲空間上の非線形拡散方程式における波面の伝播】 n次元の双曲空間上で定義された非線形拡散方程式に現れる進行波や,遠方に広がっていく波面の速度と形状について研究した.ユークリッド空間上の拡散方程式と比較することにより,双曲空間の幾何学的構造が解の挙動にどのような影響を及ぼすかを調べた.その結果,ユークリッド空間の場合,KPP方程式に代表される単安定型拡散方程式の解は,初期値がどれだけ小さくても時間が経過すると正の定常解に必ず収束するのに対し,双曲空間の場合には,空間の曲率の影響により,初期値がある程度大きくないと解は0に減衰することがわかった.また,ホロ球面波(horospherical wave)という概念を導入し,コンパクトな台から出発した任意の解の波面が,次第にホロ球面波に近づくことを証明した(文献1). ◎【KPP方程式における波面の広がり速度を最大化する問題】 空間2次元のKPP型拡散方程式で非線形項の係数が空間周期的な縞状の非一様性を有するものを考え,波面の広がり速度を最大化する係数を決定する問題を考察した.その結果,速度を最大化する係数は関数のクラスには存在せず,等間隔に平行に並んだ直線族の上に台をもつ特異速度になることを示した.さらに,広がり波面の長時間経過後の漸近形状についても詳しく調べた(文献2). ◎【非線形Stefan問題の解の正則性と漸近挙動】 空間多次元KPP型非線形拡散方程式に対する1相Stefan問題の自由境界の正則性と解の漸近挙動を論じた.具体的には,台が有界な初期値から出発した解の自由境界が必ず有限時間で滑らかになること,および,長時間経過後の自由境界が,次第に球面に近づくことを示した(文献3). この他,prey-predator型反応拡散系における波面の広がり現象に関するGiletti氏およびDucrot氏との共同研究は順調に推移しており,現在論文を投稿準備中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に掲げた研究テーマのうち,非線形拡散方程式に現れる進行波や界面運動については,全体的に満足のいく成果が得られている.また,「波状境界をもつ2次元帯状領域における進行波の均質化極限」,「積分項を含む質量保存型Allen-Cahn方程式の特異極限」および「ランダムな項をもつ拡散方程式の特異極限」のテーマについても,着々と研究が進んでおり,次年度に完成させたい. これに対し,熱方程式の解の爆発問題の研究については,興味深い着想は得られているものの,解析が非常に難しいテーマであり,他の研究テーマに時間をとられていたこともあって,研究は,ようやく前半の山を越えたところである.次年度は,爆発問題にも十分な時間を割きたい. なお,「心臓電気生理学に現れる数理モデル(バイドメインモデル)」のテーマについては,予想していた以上の前進があったが,26年度から開始した挑戦的萌芽研究のテーマとして研究を継続することとなったので,本課題研究から切り離した.
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今後の研究の推進方策 |
種々の拡散方程式における界面運動について,さらに研究を推し進める.比較的早い段階で論文の完成が見込まれるのは,prey-predator型反応拡散系における波面の広がり現象のテーマと,空間1次元進行テラス解の一意性に関する研究である.前者は,第一段階の研究に関する論文はほぼ完成しているが,未解決問題が多いので,論文投稿後も研究を継続する.また,最近研究を始めた空間多次元の拡散方程式に現れる多次元進行テラス解についても順調に研究が進んでおり,早い段階での完成をめざす. これと平行して,拡散方程式の特異極限と均質化極限に関するこれまでの研究を継続し,今年度中にある程度完成させたい.とくに,ランダムな項を含む方程式や,非局所的な積分項を含む方程式の特異極限と均質化極限の研究に力を入れる. 熱方程式の爆発問題については,引き続き,フランスの研究者との共同研究を継続する.
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