研究課題/領域番号 |
23244024
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
牧島 一夫 東京大学, 大学院・理学系研究科, 教授 (20126163)
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研究分担者 |
中澤 知洋 東京大学, 大学院・理学系研究科, 講師 (50342621)
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キーワード | ブラックホール / 宇宙X線 / すざく / MAXI / ASTRO-H |
研究概要 |
【ブラックホール連星に関する研究成果】「すざく」とMAXIの連提に基づき、ブラックホール連星 Cyg X-1のハード状態とソフト状態の比較が進んだ。ハード状態に関しては、25回の「すざく」観測により、円盤放射と「ソフトコンプトン」放射の併存が碓認された。質量降着率が増えるにつれ、これら両成分が卓越してくること、ハードコンプトン成分の折れ曲がりが顕著になること、変動パワースペクトルの白色雑音成分が弱くなり、パワースペクトルの折れ曲がり周波数が高くなることが明らかになった。これらは断片的に「すざく」以前に指摘されていたが、このように統一的に明らかになったのは初めてである。MAXIで検出したブラックホール新星XTE J1752-223の研究も進めた。 【活動銀河核に関する研究成果】「すざく」で観測された約20例の活動銀河核のデータを、時間変動と分光を組み合わせた新手法で解析したところ、Cyg X-1と同様、コンプトンコロナは非一様で、異なる光学的厚みをもつ部分が共存することが判明した。このためX線スペクトルの連続成分は単一のベキ関数ではなくなり、その効果まで含めると、外国の研究者が主張する「相対論的効果で鉄輝線が大きく広がっている」という主張は、根拠不十分と判明した。 【ASTRO-Hの装置開発】硬X線イメジャー(HXI)、および軟ガンマ線検出器(SGD)の開発を進めた。アクティブシールドを構成する結晶シンチレータの性能評価を行ない、蛍光を効率よく読み出す方法を開発し、振動試験を通じて保持方法を確立した。蛍光信号を読み出す回路の評価を行い、設計に修正を加えた。HXIおよびSGDの両装置は、衛星外部に搭載されるため熱設計がきわめて重要で、ここでも大きな進展があった。JAXAなどと協力し、シリコン撮像素子の開発、そのデータ読み出し系の評価、シミュレータ開発などを進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、本研究で設定した4つの目標のすべてにおいて、期待どおり進展があった。まず「ハード状態の降着流の動力学を明らかにする」に関しては、9.に述べた通り、Cyg X-1と活動銀河核め双方で、重要な知見がえられた。ついで「速い時間変動の起源に迫る」に関しては、Cyg X-1で降着率の変化に伴うパワースペクトルの変化が明らかになった。さらに活動銀河核の連続成分が単一ベキ関数ではないという新発見は、3番目の目標である「ブラックホールの角運動量の推定」に大きなインパクトをもつ。最後に「ASTRO-H搭載装置の開発」も鋭意、進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の研究が順調に行なわれ、4つの研究目標のいずれにおいても良い成果が得られたことから、今後の推進方策は当初の通りで良く、特段の計画の変更は必要ではない。また本研究課題の申請時点で不確かであった、宇宙ステーション搭載MAXI装置の運用の期限も、本研究課題の終了のさらに1年先までの運用延長が、2011年度末にJAXAにより正式に認められた。
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