研究課題
本研究の目的は、X線衛星「すざく」と、宇宙ステーションに搭載された全天X線監視装置MAXI という、相補的な性能をもつ2機を駆使し、ブラックホール(BH)へ降着する物質の動力学とエネルギー解放を、Low/Hard 状態に重点を置いて観測し、従来の「標準降着円盤」の描像を超えるブレークスルー得ることである。本年度は、以下の研究成果を得た。(1)「すざく」によるCygnus X-1 の観測結果を、3編の論文として出版できた。コンプトンコロナが非一様であるとする証拠を強め、またショットと呼ばれる速い変動が、BHに吸い込まれる直前の物質の挙動を表している証拠を掴んだ。(2) MAXI によるBH新星の監視を続け、その1つであるMAXI J1305-704のデータ解析を進めた。(3) BH連星と類似の系として、質量降着する弱磁場中性子星の研究を進め、「すざく」やMAXのデータから、コンプトンコロナについて有意義な情報を得ることに成功した。(4) セイファート銀河の時間変動を手掛かりに、スペクトルを成分に分解する新しい手法を開発し、謎とされていた「軟X線超過現象」が、コロナの非一様性の結果であることを突き止め、また硬X線スペクトル中にも、これまで認識されていなかった新たな1次放射成分が潜んでいることを明らかにした。(5) この(4)の結果をさらに強化すべく、「すざく」の観測時間を新たに獲得し、また国内の6台の中規模望遠鏡を用いた、セイファート銀河 NGC3561の同時観測を組織化した。(6)中質量BHの候補であるULX天体を、「すざく」を用いて研究し、低温で光学的厚みの高いコンプトン大気という新しい描像を提唱した。(7) BH観測のさらなる進展を目指し、「すざく」後継機であるASTRO-H に搭載される軟ガンマ線検出器(SDG)の開発を進め、試作品の振動試験などを完遂した。
1: 当初の計画以上に進展している
本年度は、「研究実績の概要」に述べた7項目の成果を挙げることができた。このうち(1)(2)(7)はほぼ当初の計画通りの進展である。他方で(3)~(6)は当初の計画を超える進展であり、当初はおもにブラックホール連星を中心に考えていた研究を、弱磁場中性子星、ULX 天体、活動銀河核などを含む形で展開することに成功した。とくに、「非一様な密度をもつ高温コンプトンコロナ」と、「割に低い電子温度と割に高い光学的厚みをもつコンプトン大気」という、2つの新しい考えを提唱することに成功した。どちらも、ASTRO-H を用いた観測を強力に牽引する鍵概念となると自負する。またASTRO-Hの装置開発では、開発実験の実施に加えて、BGO結晶シンチレータ内部の幾何光学に関する新しい成果を、論文として出版することができた。
今後の研究の推進方策は以下の通りである。(1)昨年度に引き続き、「すざく」で得られたCygX-1などのブラックホール連星のデータを解析するとともに、MAXIで新発見されたブラックホール新星の研究も進める。これにより、前年度の研究から示唆された「BH連星でも活動銀河核でも、BHまわりのコンプトンコロナを記述するには複数にyパラメータが必要である」という描像や、「割に低い電子温度と割に高い光学的厚みをもつコンプトン大気が、多くの天体で共通に見られる」という斬新で独創的な描像の強化に努める。そのための新たな方策として、類似の系であるULX天体や質量降着する弱磁場中性子星の研究をさらに強化する。(2)昨年度に、巨大ブラックホールの放射を異なる成分に分解する、新たな方法を確立することができた。それらのうちどれが可視光と相関するかを知るため、今年度は国内の中型光学望遠鏡群(名寄ピリカ、木曾シュミット、西播磨なゆた、広島かなた、山梨と広島のMITSuME) の多大な協力を得て、セイファート銀河 NGC 3516を6回にわたり、「すざく」と同時観測する。すでに「すざく」の観測提案は採択ずみで、光学望遠鏡のマシンタイムも確保できる見通しである。(3)JAXA、広島大、名古屋大などの機関と協力し、HXI およびSGDのエンジニアリングモデルの評価および試験を完了させる。またそれらを用いた衛星の機構モデル試験や熱モデル試験を行い、平行して、衛星搭載実機の製作および各段階での確認を行なう。装置の打ち上げ前の較正作業も進める。
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Publications of the Astronomical Society of Japan
巻: 65 ページ: ID 4, 18 pp
巻: 65 ページ: in press
Nuclear Instruments and Methods Physics Research A
巻: in press ページ: in press
巻: 64 ページ: ID 72, 12 pp