研究課題/領域番号 |
23244030
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
吉田 道利 広島大学, 宇宙科学センター, 教授 (90270446)
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研究分担者 |
川端 弘治 広島大学, 宇宙科学センター, 准教授 (60372702)
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キーワード | 天文学 / 光学赤外線天文学 / 赤外線検出器 |
研究概要 |
メーカー(浜松ホトニクス)より64×64画素のInGaAs赤外線検出器を借り受け、その冷却性能試験を行った。試験には国立天文台から借り受けた冷却デュワーを用いて行い、常温から90Kまで冷却したときの検出器の雑音、波長感度特性、暗電流などを測定した。検出器の読み出し回路は、アナログ部分を自作し、デジタル部分は国立天文台で開発されたMessiaVシステムを使用した。 その結果、90Kでは常温時よりもわずかに低い読み出し雑音が得られた。ただし、改善比は数%程度であり、読み出し回路部に起因する雑音成分が主要であることが分かった。暗電流値は冷却によって有意に低下し、90Kでは常温の1/200にまで低下した。検出器感度およびその線形性は冷却を行っても変化がないことを確認した。波長感度特性は、冷却による素子の格子定数の変化によって、長波長側の感度が低下し、90Kでは最大有効波長が約1.6μmとなることが分かった。これは机上計算値と一致しており、冷却による異常な感度変動がないことを示している。 以上の結果から、この素子は冷却化で十分使用可能であり、暗電流値の有意な低下が見られたことから長時間の露出に耐えるものであることが分かった。 さらに、より進んだ冷却実験を行うため、独自仕様の赤外線実験デュワーを設計・製作した。メーカー側の都合により実際の製作は年度をまたぐことになり、経費の一部を繰り越した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初予定していた64×64画素InGaAs赤外線検出器の冷却性能評価は、読み出しシステムの製作から基礎的実験まで終了することができた。これにより、検出器の冷却下での性能が、常温時よりも向上することを確認することができた。これらの成果により、当初予定の研究目的は7割程度達成された。 ただし、当初予定では、平成23年度中に64×64画素検出器の冷却性能評価を完了させ、独自仕様の赤外線実験デュワーの製作まで進むことを想定していたが、検出器を提供してもらっている浜松ホトニクス社内の検出器開発の遅れから、新しい検出器を提供してもらうには至らなかった。また、独自仕様の赤外線実験デュワーの製作が若干遅れ、年度をまたぐことになってしまった。これらのことから、全体としては研究計画は「やや遅れている」と自己評価する。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度の予算で購入した実験用の真空・冷却デュワーを用いて、センサの冷却性能実験環境を構築する。全体システムを組み上げて、デュワーの単体性能(真空保持能力、冷却能力、温度調整能力等)試験を行う。浜松ホトニクス社から画素サイズ40μmの128×128画素のInGaAsセンサを複数購入し、上記の実験システムに組み込んで冷却性能評価を行う。センサの読み出しのためには、国立天文台で開発され、利用実績のある検出器 コントローラMessiaVを組み込んだ読み出しシステムを用いる。このシステムは昨年度の実験で64×64画素のセンサの性能評価に用いたものであるが、新しいセンサは読み出しに関わるアナログ回路部分を新規製作する必要がある。 平成24年度前半には、64×64画素センサの冷却試験を進め、読み出し回路の改修などを行って、冷却時の検出器性能データを取得し、適宜メーカーに結果をフィードバックする。さらに、より大フォーマットの素子開発に向けてメーカーと協議する。平成24年度後半には128×128画素のセンサを導入して試験を開始することを目指す。 これらと並行して、波長感度特性を詳しく調べるためのバンドパスフィルター類の購入、比較実験のための赤外線カメラの購入を進める。
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