研究課題
近年の観測的研究手段の進歩により70~100億年前の宇宙では、現在よりもはるかに活発に星形成や超巨大ブラックホールの成長が行われていたことが明らかになった。我々はこの「激動期宇宙」の銀河の活動性の解明を目的に、北黄極領域で行われた赤外線天文衛星「あかり」を中心とする多波長観測研究(基盤研究(A)、平成16-19年度において実施)に最先端の観測機器を駆使して新たな多波長データを加え、「あかり」データでしか不可能な独自方法による活動銀河核の赤外線光度への寄与を評価し正確な星形成率を求める。平成25年度は、(1)平成24年4月に実施されたハーシェル宇宙天文台による遠赤外・サブミリ波における高空間解像・高感度観測データの解析、(2)可視・近赤外多波長データ(CFHT可視(megacam)・近赤外(WIRCAM)撮像データおよび、すばるFMOSによる多天体分光データ)の解析、さらに(3)「あかり」の近中間赤外線カメラ(2.4-24micron)9バンドでの北黄極領域撮像の再解析画像をベースとした新たな銀河カタログの性能評価を予定通り実施した。「あかり」を中心とする多波長画像およびカタログの整備を実施した。これらの成果の学術論文として投稿すると共に、平成25年7月に東京大学で行われた次世代赤外線天文衛星に関する国際会議や8月にベトナムで行われた国際科学会議・11月に台湾でおこなれたワークショップにて発表した。
2: おおむね順調に進展している
北黄極領域で見つかった赤外線銀河の多波長(紫外~中間赤外)カタログを基礎とする激動期宇宙における銀河の活動性研究に関して、当初計画では以下の3つの研究項目を行うこととなっていた: (1)ハーシェル宇宙天文台による遠赤外・サブミリ波における高空間解像・高感度観測の立案と実施、(2)チャンドラX線天文台の観測および「あかり」中間赤外多波長データによる活動的銀河核の分類を行うこと、そして(3)地上大口径望遠鏡の多天体分光器による天体のスペクトル線観測を行うこと。平成25年度には(1)前年度までに行われたハーシェル宇宙天文台による遠赤外観測データの整約とカタログ作成、チームメンバーによるその妥当性の評価、(2)海外研究協力者の宮地氏を中心に前年度までに行われた画像解析とX線天体カタログ作成をベースに、「あかり」赤外線カタログとの同定、及び(3)国立天文台ハワイ観測所の近赤外ファイバー多天体分光器FMOSによる観測データの解析を実施した。さらに「あかり」を中心とする多波長画像およびカタログの整備と論文発表を行った。これに基づき赤外線天文衛星「あかり」の中間赤外多波長データによる爆発的星形成と活動的銀河核の識別能力を活かして(i)ダストに隠された活動的銀河核 (AGN)の赤外線光度への寄与を分離し、かつハーシェル宇宙天文台の観測データも用いて(ii) z=1-2における銀河の正確な全赤外線光度(=星形成率の指標)を求める研究に着手した。その過程で、激動期宇宙の星形成を担うのは、銀河衝突合体に伴う非常に激しい星形成(スターバーストモード)ではなく、単位星質量あたりの星形成率(が一定の値に制御された比較的安定した星形成(主系列モード)であるということもわかった。このように、当初の計画通りに進行していると結論した。
平成26年度はこれまで取得した様々な多波長データの整理と、それらを総合的に用いて激動期宇宙の銀河の研究を総合的に実施していく。具体的には、(1)ハーシェル宇宙天文台のデータを用いた遠赤外銀河計数の評価と銀河進化モデルとの関係づけ、(2)可視・近赤外多波長データ(CFHT可視(megacam)・近赤外(WIRCAM)撮像データによる測光学的赤方偏移の妥当性評価とそれに基づいた赤外光度関数の作成、(3)IR8や8micron/5 micron 光度比の、星形成モードとの関係性の研究、そして(4)FMOS分光観測データによるz=0.9での塵に覆われた銀河の金属度の研究、等を行う。以上を柱とし、国内外の学会・研究会での発表および論文執筆も進めていく。
すべて 2014 2013
すべて 雑誌論文 (11件) (うち査読あり 10件、 オープンアクセス 11件) 学会発表 (7件) (うち招待講演 1件)
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