研究課題/領域番号 |
23244047
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研究種目 |
基盤研究(A)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山下 了 東京大学, 素粒子物理国際研究センター, 准教授 (60272465)
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研究分担者 |
北口 雅暁 京都大学, 原子炉実験所, 助教 (90397571)
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キーワード | 素粒子実験 / 量子ビーム / 宇宙物理 / 材料加工・処理 / 精密研磨 |
研究概要 |
本研究では、(1)極低エネルギー中性子(UCN)の輸送・貯蔵用の界面技術の確立(2)加速器に同期する特殊磁場で生成当初の高密度中性子を拡散させず輸送する世界初の中性子収束方式の確立を目的としている。H23年度の最も大きな研究成果は(2)の原理実証に世界で初めて成功したことである。 (1)に関しては、UCN輸送のための全反射ガイド管の候補であるDiamond-like Carbonの研究を開始した。高エネルギー加速器研究機構において製膜したサンプル基板で、J-PARC及び京都大学原子炉実験所にて中性子反射率を測定・評価した。製膜過程の水素を重水素に置換することで中性子に対する光学ポテンシャルが増加し、輸送効率が向上することが確認できた。中性子反射測定のための計測系をJ-PARC BLO5用に準備し、中性子反射の数値モデリングの開発を進めた。更にドップラーシフターによるUCNの生成量を増大させるための光学系の設計・シミュレーションを進めている。 (2)に関して、超冷中性子密度を保持して発生位置から実験領域へ輸送するシステムを構築し、実証実験を行った。このシステムは超冷中性子(UCN)を輸送する全反射ガイド管と、UCNの密度保持のために中性子の速度を自在に制御する装置「Rebuncher」を組み合わせたものである。Rebuncherによる運動エネルギー変化はRebuncherに印可される高周波磁場の周波数に比例する。Rebuncherの周波数をUCNの飛行時間に応じて変化させることで、実験領域位置へ同時に到達させ空間的に集束させる。実証実験には15MHzから30MHzの帯域を持つプロトタイプを用い、実際にUCNの集束を確認した。UCN速度制御能力の向上、特に周波数帯域を拡大するためのRF同調回路の設計を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
中性子反射に関して、特に蓄積用乱反射板の評価やシミュレーションはJ-PARCの震災からの復旧までの施設を利用できなかった期間があったため、やや遅れている。J-PARCが計画通りに復旧したおかげで今後は問題なく進めることができる。一方、密度保持システムのキーデバイスであるRebuncherの実証実験を先行して行い、当初の予定を超えて原理実証まで進めることができた。このため、全体としておおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画の大きな変更はない。今後は特に中性子輸送及び蓄積に関連する、基板表面の研究を進める。各種基板やコーティングの中性子反射特性を系統的に評価し、最適なものを選定・製作する基準を確立する。超冷中性子を用いた実験を効率よく行うために、ドップラーシフターを高度化する。また、Rebuncherの性能向上を進める。これら超冷中性子制御デバイスの詳細な数値モデルを開発し、将来の次世代実験の設計開発の基盤を構築する。
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