0でない核スピンを持つ原子では、超微細相互作用によって準位の分裂が起こり、レーザー誘起コヒーレンスを応用した種々のスキームにおいては、それがしばしば問題となる。我々は、スタルクシフトを応用したダイナミックなレーザー離調によって原子内に大きなコヒーレンスを安定して発生させ、それを用いて高い変換効率で核スピン偏極に必要な真空紫外光を発生させるスキームを考案したが、その際に、核スピンの存在は無視していた。 ダイナミックなレーザー離調を応用したコヒーレンス生成における核スピンの影響を調べるため、Na原子の3s-3p遷移を対象とした研究を進めた。この系は、4準位系として考えることができ、それについて一般化したブロッホ方程式を導出した。この一般化ブロッホ方程式は、ある条件のもとでは2準位系、V型の3準位系、Λ型の3準位系、あるいはダブルΛ型の4準位系へと帰着することができる。 得られる最大コヒーレンスについて、数値計算をすることなくある程度の結論を得ることができることを示した。さらには、それぞれの場合について具体的に数値計算を進め、たとえ超微細構造の存在により、最も理想的な系である2準位系ではなくなったとしても、ある程度のコヒーレンスを実現できることを示した。すなわち、純粋な2準位系であれば、最大コヒーレンスは0.5となるが、Na原子の3s-3p遷移をダイナミックなレーザー離調の方法で直線偏光励起した場合にはおよそ0.35、円偏光で励起した場合には、およそ0.1と、直線偏光を用いた方が、コヒーレンス生成には有利であることも明らかにした。
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