研究課題/領域番号 |
23244057
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
北澤 良久 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 教授 (10195258)
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研究分担者 |
磯 暁 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 教授 (20242092)
土屋 麻人 静岡大学, 理学部, 准教授 (20294150)
青木 一 佐賀大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (80325589)
西村 淳 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 准教授 (90273218)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 超弦理論 / 行列模型 / ゲージ理論 / 超対称性 / ブラックホール / ドジッター時空 / 暗黒エネルギー / 非平衡場の理論 |
研究概要 |
ドジッター時空は、正の宇宙項を持つ現実的な時空であり、その上の場の理論は宇宙項問題など本質的な素粒子論の課題を理解するために重要である。ドジッター時空においては、宇宙膨張とともに長波長自由度が増大するために、物理量が時間に依存する可能性がある。北澤はこの問題を、非平衡物理の観点から研究した。非線形シグマ模型において、物理量のリーディング時間依存性は、摂動の全次数で相殺する事を示した。 西村と土屋は関連する問題を、超弦理論の非摂動的定式化の候補であるIIB行列模型を用いて研究した。まず、古典解を得る一般的な手続きを与え、あるクラスの古典解を分類した。その中に宇宙項問題を自然に解決する解があることを示した。次に、IIB行列模型で早い時刻を有効的に記述すると期待されるフェルミオンのパフィアンを簡単化した模型において、繰り込み群的手法を確立し、指数関数的膨張する時空が得られること見た。これは、IIB行列模型においてインフレーションが起こることを示唆している。さらに、元の模型でも指数関数的膨張と矛盾しない膨張が得られることを確かめた。 青木は、IIB行列模型が磁束を持つトーラスにコンパクト化された状況を調べ、標準模型の物質内容を与える行列の配位を見つけた。さらに、行列模型の半古典的解析を行い、標準模型の出現確率を評価した。本科研費で雇用している関野は、行列模型におけるエネルギー固有状態の研究を行った。 また、磯と青木は、ヒッグス粒子などのスカラー粒子の質量が、輻射補正を受けても、プランクスケールやGUTスケールに比べて小さな値に保たれるのはなぜかという、自然さ・階層性問題をウィルソン的繰りこみ群の枠組みで再考し、場の理論の枠内でどこまで解け、どこからは解けず、それが埋め込まれていると思われる高エネルギーで完全な理論で答えるべき問題かを明確にした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
十分時間が経過した後における行列模型の振る舞いを調べることは、数値シミュレーションに基づく直接的な方法では困難であった。我々は、そのような状況下で良い近似を与えると期待される古典運動方程式を解析することにより、非常に興味深い結果を得ることができた。 また、ドジッター時空の場の理論は、良く知られた赤外発散の問題のため、長年多くの研究者を悩ましてきたが、非平衡物理学の観点から解析した結果、非常に明確な結論を導くことができた。 さらに、最近LHC加速器実験で発見の兆しが見えているヒッグス粒子に関しても、超弦理論の観点から新しい見かたを与えることに成功した。 当初の計画以上の進展と言ってよい。
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今後の研究の推進方策 |
ドジッター時空上の場の理論の研究を発展させ、量子重力効果の理解を深める。重力子のプロパゲーターは、あらわな時間依存性を持ち、ドジッター時空の対称性を破る。物質場と重力子の相互作用を研究し、重力子のプロパゲーターの影響が伝搬して物質場の有効作用があらわな時間依存性を持つ可能性を研究する。場の理論における赤外効果の相殺機構を、ドジッター時空上の量子重力に応用して、その理解を深める。 また、現在の宇宙の暗黒エネルギーは、これまでの宇宙の時間発展の履歴と関係している可能性がある。この考えに基づき、インフレーションでのドジッター膨張から輻射優勢な宇宙という時間発展のもとで、真空エネルギーの発展方程式を非平衡場の量子論の手法を用いて計算し、現在の暗黒エネルギーの残存量を評価する。 IIB行列模型の研究も引き続き行う。インフレーションの後、ビッグバンと解釈される振舞いが見られるのかを調べ、さらに宇宙背景輻射の測定の仕方などを探求する。また、カイラルフェルミオンの出現の機構の解明および標準模型が導出される可能性を追求する。さらに、重力子を同定することにより、時空の幾何の読み取り方の処方箋を得ることを目指す。数値シミュレーションの方法に関して、並列化の方法の検討、共役勾配法における前処理の導入などによって、高速化を図る。 これに関連して、行列模型における現象論的研究も引き続き行う。まず推進したい重要な問題は、ヒッグス場に関するものである。今までの研究からゲージ場やフェルミオン場の行列への埋め込みはわかった。ヒッグス場もその候補の行列への埋め込みはわかったが、いわゆる自然さ・階層性問題が問題となり、質量を軽く保つことが困難である。この問題に何らかの答えを与えたい。また、電弱対称性の破れや湯川結合定数の値なども調べたい。
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