研究課題/領域番号 |
23244062
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研究種目 |
基盤研究(A)
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
岩井 伸一郎 東北大学, 大学院・理学研究科, 教授 (60356524)
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研究分担者 |
米満 賢治 分子科学研究所, 理論・計算分子科学領域, 准教授 (60270823)
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キーワード | 強相関電子系 / 光誘起相転移 / 超高速現象 / 有機伝導体 / 遷移金属酸化物 |
研究概要 |
i)CEP安定化パルス(フルコヒーレント極超短パルス光)の発生;本研究において必要不可欠な1-2サイクルcarrier-envelope phase(CEP)安定化したパルス(フルコヒーレント極超短パルス光)発生のために、新規レーザーの導入とそれを用いた超広帯域スペクトル発生を行った。Kr封入中空ファイバーによる自己位相変調効果により1-2μm領域において、フーリエ限界が、1.5サイクル(~7fs)に匹敵する広帯域スペクトルを発生し、その分散特性を明らかにした。次年度は、この分散特性に従ってチャープミラーを設計し、実験に用いるフルコヒーレント極超短パルスの発生とポンププローブ実験へと展開させる。 ii)赤外12fsパルスによる10fsコヒーレントダイナミクスの開拓;従来開発を行ってきた、赤外12fsパルスの圧縮機構を、形状可変鏡からチャープミラーへと改良することによりビームの時間プロファイルを格段に向上させ、様々な物質計における10fsコヒーレント電子、格子ダイナミクスを測定することが可能になった。これまでに行ってきた、有機伝導体における電荷秩序絶縁体やダイマーモット絶縁体の電子的な秩序の光融解に加え、ダイマーモット相中に電荷秩序/強誘電クラスターを光で生成するなど新たなタイプの光誘起相転移の初期過程においても電子の超高速振動が重要な役割を果たしていることを示した。また、ペロブスカイト型コバルト酸化物の光モット転移においても、周期20fs程度の超高速振動を初めて見出した。 iii)理論;モット絶縁相にある擬2次元有機導体を光照射により金属にする場合、キャリア導入による方法と相互作用を弱める方法がある。有効相互作用は二量体内の分子間軌道重なりによって変化する。時間依存シュレディンガー方程式の数値解によれば、相互作用の弱まり方は吸収光子密度に比例するが、その比例係数は励起エネルギーにほとんど依存しない。しかしキャリアはダイマー間電荷移動励起でのみ導入される。つまり励起エネルギーに敏感なキャリア導入が瞬時に起きることと、相互作用は遅く変調することで、光励起エネルギーに依存した相転移経路が実現することを理論的に再現した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1;従来パルス(赤外12fsパルス)を改良し、いろいろな有機物質や遷移金属酸化物への展開を行った。ある秩序から別の秩序を光で構築する新しいタイプの光誘起相転移や、ペロブスカイト型酸化物におけるモット転移においても新たな電子、格子コヒーレントダイナミクスを見つけるなどの成果が得られている。司本研究計画の主要課題の達成に必要不可欠なフルコヒーレント極超短パルスの発生へ向けレーザー導入や、広帯域スペクトル発生など十町に進捗している。3;光誘起相転移において極めて重要な側面である励起エネルギー依存性について理論的な考察を行った。本研究の対象物質の一つである二次元有機伝導体において、励起エネルギーによって相転移の経路やメカニズムが変化することを理論的に明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
本年度導入した新規レーザーシステムおよびそれを用いて発生させた超広帯域パルスの時間特性を精密に測定して、圧縮用のチャープミラーを製作する(ミラーの蒸着は、フェムトレーザー社に依頼)。チャープミラーのみで充分な圧縮ができない場合は、位相変調器を併用するなどの対策を講ずる。また、パルスのcarrier-envelope位相(CEP)の測定のためにf-2f干渉計を製作して、CEP安定化を確認した後、ポンププローブ測定を行う。対象としては、光絶縁体-金属転移を示す電荷秩序型、ダイマーモット型有機伝導体のほか、本年度新たにコヒーレントダイナミクスを見出した有機物、酸化物を想定している。また理論的には、励起直後の多体電子のダイナミクスを、実験結果と比較することによって電子分極の位相緩和がどのように起こるのかを微視的な立場から検討する。
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