研究課題/領域番号 |
23244062
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
岩井 伸一郎 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (60356524)
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研究分担者 |
米満 賢治 中央大学, 理工学部, 教授 (60270823)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 強相関電子系 / 光誘起相転移 / 超高速現象 / コヒーレント制御 |
研究概要 |
1)CEP安定化パルス(フルコヒーレント極超短パルス光)の発生;23年度までに導入を完了した、新規レーザーとパラメトリック増幅器と、アイドラ光を種光とするガスチェンバー中の中空ファイバーを用い、ファイバー用のガスチャンバーのガスの種類(Ar,Kr)やガス圧を調整して、スペクトルの帯域やスペクトル形状を整形し、1-2.3μm領域において、フーリエ限界1.5サイクル(~7 fs)の超広帯域スペクトルを発生し、その分散特性を明らかにした。さらに形状可変鏡を用いたパルス圧縮機を自作し、10fs以下までの圧縮を行った。 ii) 赤外12 fsパルスによる10 fsコヒーレントダイナミクスの探索;従来開発を行ってきた、赤外12 fsパルス(3サイクルパルス)を用いて、様々な物質系における10 fsコヒーレント電子、格子ダイナミクスの探索を行っている。前年度より、有機伝導体における電荷秩序絶縁体やダイマーモット絶縁体の電子的な秩序の光融解や再構築に加え、遷移金属酸化物(層状鉄酸化物、ペロブスカイト型コバルト酸化物)における光磁気転移の探索を開始し、1光子あたり1000サイトにも及ぶ高効率な光スピン転移や、励起光の偏光に依存した強磁性-反強磁性転移を発見した。 iii) 理論; 過渡的な分子の価数を予測するときに、分子の価数に敏感な電子励起を観測するのと、分子振動の振動数を測定するのとでは、平衡状態で得られた経験則を使う限り、異なる結果を導いてしまう。超高速変化の初期過程では断熱ポテンシャルに沿って運動は起こらず、電子状態と振動状態の個別の情報と相関の解析が重要である。この観点からEt2Me2Sb[Pd(dmit)2]2の光誘起電荷秩序融解ダイナミクスを計算し、断熱近似による描像とはかけ離れた量子的時間発展が明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
i)本研究計画の主要課題の達成に必要不可欠なフルコヒーレント極超短パルスの発生へ向け、フーリエ限界1.5周期(7 fs)の超広帯域スペクトル発生を完了している。さらに分散特性の精密測定にも成功し、10 fsまでの予備圧縮を終え、今後の本格的な圧縮に向け準備が進んでいる。また、圧縮方法として、チャープミラーおよび形状可変鏡を用いた二つの方法を並行して準備しており、いずれかの方法がうまくいかない場合に備えている。次年度に予定している、本格的な圧縮と位相測定を経たパルス列の生成に向け順調に研究は進んでいる。 ii) 昨年度に引き続き、従来パルス(赤外12 fsパルス)を改良し、有機物質や遷移金属酸化物への展開を進めている。有機物質においては、強誘電クラスターの光増殖という新しいタイプの光誘起相転移の初期過程みおいて微視的な双極子のゆらぎに関係したコヒーレント振動を観測した。ペロブスカイト型酸化物においては、1光子あたり1000サイトにも及ぶ高効率の光スピン転移を発見した。その初期過程(コヒーレントなJT歪みと軌道秩序を伴なったスピンクラスター生成)から、高効率のスピン転移は、a) 金属錯体における低スピン-高スピン転移にみられるようなペロブスカイト構造の変化による、軌道準位の変化と、b) マンガン酸化物における光誘起相転移(電荷、軌道秩序絶縁体-強磁性金属)の機構であるサイト間の電荷移動 を組み合わせた機構が働いていると考えられる。 iii) 電子格子相互作用が強い分子性導体では、振動電場の振幅が大きいとき、および分子振動の振動数が大きいときに、断熱近似による描像からはずれていくことがわかってきた。当初は電子と分子振動の結合が切れて、裸の振動数で分子が揺れると思われたが、単純にそうならなかった。これらの変化は系統的に起こることが数値計算でわかったので、今後の解析が容易になった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、超広帯域パルス(フーリエ限界1.5サイクル~7fs)の圧縮を行う。予備的な圧縮によって<10 fsまでの圧縮に成功しているが、本当に難しいのはここからである。圧縮方法として、チャープミラーおよび形状可変鏡を用いた二つの方法を並行して準備しており、いずれかの方法がうまくいかない場合に備えている。チャープミラーを用いた方法に関しては、まず、測定した超広帯域スペクトルの分散特性に基づいて設計を行い、ミラー製作は、メーカ―(シグマ光機、フェムトレーザーズ)との、共同研究によって試行錯誤を行いながら進める。 また、理論的には、固有状態や平衡状態に対しては適用可能な摂動論をそのまま使うことができず、過渡状態の解析は一般には困難であるが、平衡状態で成立する式を一般化することで過渡状態の一部の性質を説明できることが、予備的な計算でわかってきた。この結果をもとに、2次摂動計算と同程度の労力が必要な解析を過渡状態に対して行う。振動数変化を示すことができたら、過渡的な振動状態と電子状態の相関を逐次調べて、実験結果との比較を行う。緩和とダイナミクスの関係も調べる。
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