研究課題/領域番号 |
23244065
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
田中 耕一郎 京都大学, 物質-細胞統合システム拠点, 教授 (90212034)
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研究分担者 |
有川 敬 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (70598490)
廣理 英基 京都大学, 物質-細胞統合システム拠点, 助教 (00512469)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | テラヘルツ / 非線形分光 / 高強度テラヘルツ光 / キャリア増幅 / 半導体光物性 |
研究概要 |
前年度に続き、高強度テラヘルツ光照射下でおきる非線形光学応答の解明をおこなった。その結果、下記のような成果が得られた。 ①グラフェンにおいて昨年度得られた結果を定量的に説明するために、ボルツマン方程式に様々な散乱過程を取り入れた理論を構築し、実験の再現を試みた。パルス幅の範囲内で電子系は熱化し、衝突イオン化により数倍のキャリア増幅が起きていることがわかった。②グラフェンにおけるテラヘルツ光による加速過程を理解するために、高強度テラヘルツ光の透過実験をおこない、時間領域で微分抵抗の解析を行った。その結果、70 kV/cm程度の高電場下で微分抵抗が増加していることが分かった。シミュレーションとの比較から、テラヘルツ電場により大きく駆動されたキャリアのエネルギー散逸が光学フォノン放出により大きくなったことによると考えられる。③高純度GaAs量子井戸における光励起キャリアの加速過程を調べた。GaAs井戸層への光励起を行った場合には励起子発光の増大は認められなかったが、Alを含むバリア層への光励起をおこなった場合には瞬時的に巨大な発光の増強が確認された。バリア層においては多くの長寿命の局在励起子が存在し、高強度テラヘルツ光照射によるトンネルイオン化によってGaAs井戸層の励起数が増加したものと考えられる。④2色の超短パルスレーザーを用いた大気プラズマを用いたテラヘルツ光源から得られるテラヘルツのビームモードを調べた。この結果、遠隔場においてビームの断面がドーナツ型の形状を持つ強度分布をしていること分かった。また時間領域テラヘルツ分光から、水蒸気吸収が抑圧された伝搬モードが存在することが分かった。⑤高強度テラヘルツ光照射下でのキャリアダイナミクス理論を構築した。基本となる光学ブロッホ方程式をグラフェンへ適用し結晶構造とバンド内過程に起因する異方性が重要であることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
グラフェンとGaAs量子井戸において高強度テラヘルツ光による加速過程とそれによるキャリア数増幅が観測されており、研究は順調に進んでいる。また、空気プラズマにより発生した高強度テラヘルツ光によりこれまでにない分光情報が得られることを示した結果は、思いもかけなかった成果であり、当初の計画以上に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は空気プラズマをもちいた高強度テラヘルツ光により、グラフェンを励起し、電子のバリスティック加速とそれによって生じる非線形光学応答を明らかにする。特に、加速された電子による応答とバンド内遷移の寄与を位相情報に着目しながら分離することを試みる。さらに、マルチサイクルの高強度テラヘルツ光をもちいて、1次元量子スピン系におけるフローケ状態を実現し、スピン状態の変化を誘起することを試みる。また、高強度テラヘルツ照射下でおきる非線形光学応答の理論計算を低次元系ですすめ、新たな非線形光学や非線形輸送現象を見いだす。以上の結果をとりまとめ、学会発表・論文発表をおこない、高強度テラヘルツ光によるメゾスコピックな「線形電子加速器」によって生成される新しい物質状態についてまとめる。
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