研究課題
磁気自由度のミクロな秩序と揺らぎに見られる電子の局在-遍歴のデュアリティー(近藤効果)などの強相関電子現象を、中性子散乱法により解明することを目的とする。本研究では、J-PARCなど世界的な中性子発生源の性能向上や高線束ビーム技術の発達をふまえ、これまでに考慮されてきた双極子遷移過程よりも高次の多極子ポテンシャルによる中性子磁気散乱過程を狙う。さらに偏極中性子を用いて、磁気分極の観測や量子準位間遷移の選択則の検証を目指す。本研究が採択された年度後半で、以下のような物性研究および実験手法準備を開始した。中性子制御技術(偏極など):磁気散乱過程の次数によりスピン偏極中性子散乱に選択則が変わることを念頭に、世界的な技術開発が進む加速器中性子を偏極させるヘリウム3ガスを調達した。これを用いて本研究で開発するSEOP中性子偏極装置を導入予定であるJ-PARC装置の計画は順調に進展しており、平成23年9月にJ-PARCセンター最終審査に合格し、建設が公式に承認された。また中性子の高長波成分を除去してクリーンなビーム実験環境を得るため、サファイアフィルターを導入した。Prを含む強相関電子系における重い電子状態などの研究:4f^2系でも近藤効果や重い電子状態など伝導電子との混成効果が重要な物質が発見されている。その典型例である金属-非金属(電荷密度波)転移を示すPrRu_4P_<12>の4f電子の全対称型高次多極子秩序について、電荷ドープにより約10K以下で再金属化する(Pr_<1-x>Ce_x)Ru_4P_<12>の磁気励起や構造転移を調べた。再金属相で4f電子の結晶場分裂エネルギー準位の再構成と結晶構造の再転移が見られ、電荷ドープによる非金属多極子相の不安定化を見出した。これらを含むビーム実験研究を成功させる基礎物性測定環境を整えるため、現有MPMSに用いるRSO部品を購入し、磁化率測定精度を格段に向上させた。
3: やや遅れている
本課題が採択されたのは平成23年度後半であったため研究期間が当初の予定よりも短期であることに加え、主たる実験手法である中性子散乱実験施設の震災後の再稼働が間に合わなかったため、若干の遅れがある。しかしながら、海外の中性子散乱施設の利用を行って、問題点を最小限にとどめている。
上記のような中性子散乱を行うための大型施設の利用に問題があるが、それの補完として、海外施設での共同研究や来年度の中性子研究課題申請を複数立案し、一部実施許可を得た。年度末にはJ-PARCの再稼働が順調に行われたので、次年度以降の研究体制は大きく改善できる。さらに、日本原子力研究開発機構のJRR-3原子炉が再稼働すれば、東北大学所有の中性子散乱装置を用いて、本研究で開発するSEOP偏極装置のビームテストを行い、J-PARCへの展開に備える。原子炉が再開しない場合は、オフビームテスト、あるいはJ-PARCテストポートでのビームテストを試みる。
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