研究課題/領域番号 |
23244071
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研究種目 |
基盤研究(A)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大谷 義近 東京大学, 物性研究所, 教授 (60245610)
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研究分担者 |
新見 康洋 東京大学, 物性研究所, 助教 (00574617)
福間 康裕 独)理化学研究所, 量子ナノ磁性研究チーム, 研究員 (90513466)
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キーワード | スピン流 / スピン注入 / スピン蓄積 / スピントルク / 金属絶縁体転移 |
研究概要 |
本研究課題では(1)純スピン流による微小磁性体発振励起と(2)スピン蓄積による局所相転移を発現させることを最終的な目的としている。両目的を達成するためには、スピンバルブ構造において銀細線中のスピン蓄積を可能な限り増大させかつ拡散伝導する集団スピンを制御性良く操作することが必須となる。そのためにはスピン偏極フィルターとして作用するMgO界面層構造の最適条件を決定すると同時に磁性ナノ細線を橋渡しする銀ナノ細線中のスピン緩和機構を理解することと集団スピンの歳差運動の詳細を理解することが重要である。 この2点に主眼を置き研究を進めた。その結果、再現性良く巨大なスピン蓄積効果を生じさせる手法を確立し、また銀細線中を伝搬するスピン流の緩和機構がElliot-Yafet機構により説明できることを示した。この機構では、縮退したBloch電子状態がスピン軌道相互作用により分裂するため、通常スピンに依存しない相互作用である格子振動、結晶粒界、非磁性不純物などによりスピン反転が起こるが、温度依存性の実験的から、格子振動が主要因となるBloch-Gruneisen理論でよく説明できることを明らかにした。更に、従来の200倍強の信号を生む巨大蓄積効果と複数のスピン注入端子を用いることで10ミクロンの銀ナノ細線中を集団スピンが2π回転しながら伝搬することを実験的に示すことに成功した。また、スピン伝搬の媒体材料としてSiやMg等の軽元素に関しても面内非局所スピンバルブ実験を行い、素子材料の可能性を探索した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究全体の進行状況という観点からはおおむね順調に進んでいる。一方で、基礎的なスピン蓄積現象の理解とその操作という観点については、スピン蓄積信号の巨大増強と複数スピン注入端子の手法を組み合わせることで、10ミクロンに及ぶ長距離拡散伝導を達成した。更にこのデバイスに垂直磁場を印加することで比較的に良好なコヒーレンスを保ったまま2π回転の歳差運動をさせることに成功した。これらの結果はNature Materials誌に掲載発表され、研究開始当初の予想以上の成果と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、このように安定に発現させることに成功した巨大スピン蓄積を効率よくターゲット材料に非局所注入する実験を急ピッチで展開する。具体的には純スピン流誘起磁化ダイナミクスの観測を成功させる。スピンバルブ構造を構成する強磁性材料としてよりスピン偏極率の高いFe-Co合金なども検討して実験を遂行する。スピン蓄積による局所相転移に関する課題もより加速させて研究を進めたい。被スピン注入物質の見直しも検討する。例えば、金属絶縁体転移を示す物質に比べて作製が容易な反強磁性強磁性磁気転移を示すFeRh合金にも着目して実験を遂行する。
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