研究概要 |
スピンの大きさが1/2の籠目格子反強磁性体Cs_2Cu_3SnF_<12>は我々が初めて合成した物質である。昨年度,この物質の磁気励起を中性子非弾性散乱で測定を行ったが,今年度はその解析を重点的に行った。この系の磁気励起は基本的にスピン波理論で理解できることが分かった。しかし,線形スピン波理論を適用して求められた交換相互作用の値は磁化率の解析で得られた値の約60%であることが判明した。磁化率から求めた交換相互作用の値は厳密対角化理論の結果を用いて得られた精度の高い値である。本実験結果はS=1/2の籠目格子反強磁性体の磁気励起エネルギーに大きな負の量子再規格化が起こっていることを明確に示している。この磁気励起の大きな負の量子再規格化は初めて観測された現象で,1次元反強磁性体でよく知られている正の量子再規格化とは正反対の現象である。従って,その発見の意義は大きいと言える。強いフラストレーションと量子効果が相乗的に働いた結果,この新現象が現れたと考えられ,今後理論的研究が活発化することが予想される。現在,この成果を論文にまとめている最中である。 次にスピンの大きさが1/2と1の三角格子反強磁性体Ba_3CoSb_2O_9とBa_3NiSb_2O_9の純良粉末試料を作成し,強磁場磁化過程の実験から,両物質においてほぼ等方的な磁化プラトーが飽和磁化の1/3の位置に現れることを発見した。更に,Ba_3CoSb_2O_9については飽和までの全磁化過程を観測し,高精度の理論計算と定量的に見事に一致することを示した。この結果はBa_3CoSb_2O_9が理想的なS=1/2三角格子反強磁性体であることを示している。現在,S=1/2の三角格子反強磁性体は幾つか知られているが,本性化はBa_3CoSb_2O_9が正規の三角格子をもつ理想的なS=1/2三角格子反強磁性体に最も近い物質であることを示している。また,通常は相互作用が大きく異方的なCo^<2+>化合物において当法的に近い交換相互作用が現れるという貴重な実験例を示すことができたことは注目すべきことである。この成果は2年のレター論文として出版した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
スピンの大きさが1/2と1の三角格子反強磁性体Ba_3CoSb_2O_9とBa_3NiSb_2O_9において量子効果によるほぼ等方的な磁化プラトーを発見した。更に,Ba_3CoSb_2O_9の全磁化過程を観測し,高精度の理論計算と定量的に一致することを示した。この結果はBa_3CoSb_2O_9が現在知られている中で最も理想的なS=1/2三角格子反強磁性体であることを示している。また,S=1/2の籠目格子反強磁性体Cs_2Cu_3SnF_<12>の磁気励起を中性子非弾性散乱で観測し,強いフラストレーションと量子効果のために,磁気励起エネルギーに大きな負の量子再規格化が起こることを発見した。
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今後の研究の推進方策 |
まず,S=1/2の籠目格子反強磁性体Cs_2Cu_3SnF_<12>とRb_2Cu_3SnF_<12>について磁気励起を中性子非弾性散乱で詳細に調べ,高エネルギーの励起も含めた磁気励起の全容を解明する。また,空間的に強い異方性をもったS=1/2の籠目格子反強磁性体Cs_2Cu_3CeF_<12>の磁性を詳細に調べる。4更に,S=2の籠目格子反強磁性体Cs_2Mn_3LiF_<12>の磁気構造を中性子弾性散乱で解明する。続いて,三角格子反強磁性体Ba_3CoSb_2O_9とBa_3NiSb_2O_9の単結晶を育成し,磁気相図を完成するとともに磁気励起を詳細に調べ,理論的に予言されている磁気励起の大きな量子効果を検証する。
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