研究課題
量子情報通信処理において、光子は、長距離伝送が可能などの特長を持つ、有力な情報担体である。その光子を用いた量子情報技術で、現在ボトルネックとなっているのが、光量子メモリである。本研究では、λ型原子の2つの基底状態間に状態を転写するという理論提案を、ダイヤモンド窒素欠陥(NV)中心と、低損失で高いQ値を有するファイバ結合微小球共振器を組み合わせた系により実現を目指す。そのために、NV中心とファイバ結合微小球共振器を組み合わせたデバイスを作成し、それを極低温下で評価する。また、評価実験に際しては、窒素欠陥中心の微細構造準位を、マイクロ波等で制御することが望まれる。平成24年度および平成25度の計画延長においては、極低温下でのデバイス評価実験、その結果、特定の基板上に分散させたダイヤモンドナノ結晶中のNV中心が、非常に鋭い共鳴ピークを示し、かつ、フォノンサイドバンドが大きく抑制されることを見出した(Optics Express2012)。また、ファブリペロ型共振器を用いた高分解能フォトルミネッセンス測定装置を構築、ダイヤモンドナノ粒子中のNV中心から、1.2GHzという非常に狭い線幅のゼロフォノン線の発光の観測にも成功した(Optics Express2013)。また、ダイヤモンド窒素欠陥中心とファイバ結合微小球を組み合わせたデバイスについても、実現に成功(Optics Express 2012)、また、ファイバ結合微小球共振器の極低温下(10K以下)での厳密な制御にも成功した(Optics Express 2012)。また、磁場発生装置選定し購入、光検出磁気共鳴(Optically detected magneto resonance, ODMR)実験系の構築を行った。その結果、単一NV中心のODMR信号の取得を確認した。
1: 当初の計画以上に進展している
これまでに、ダイヤモンド窒素欠陥準位のピック&プレイスに成功、また、微小球共振器とナノ光ファイバの結合の精密な制御により、極低温下での偏光解析による位相シフトスペクトルの取得に成功する(Opt. Exp. 2012)など、当初計画した、NV中心とファイバ結合微小球共振器を組み合わせたデバイスを作成し、それを極低温下で評価する技術をほぼ確立することができた。さらに、固体単一発光体の発光のナノ光ファイバへの高効率結合に初めて成功、Nano Letters (IF=13.2)に掲載されている。この成果は、量子ドットや蛍光蛋白などの光ナノプローブからの蛍光を、共焦点顕微鏡などのシステム無しで、直接単一モードファイバに高効率で出力できることを意味し、光量子情報への応用上の意味だけでなく、光化学やライフサイエンスにいたるまで、幅広く応用可能性がある。今年度は、フォノンサイドバンド抑制条件の発見(Optics Express2012)を発展させ、ダイヤモンドナノ粒子中のNV中心から、1.2GHzという非常に狭い線幅のゼロフォノン線の発光の観測にも世界で初めて成功している(Optics Express2013)。これらの成果はNano Letters 1件、Opt. Exp 8件他の論文として発表している。このことから、当初の計画以上の進展が得られたと考える。
以上のように、NV中心とファイバ結合微小球共振器を組み合わせたデバイスを作成し、それを極低温下で評価する技術の確立をしてきた。また、平成24年度および平成25度の計画延長において、1.2GHzという非常に狭い線幅のゼロフォノン線の蛍光(PL)スペクトル観測にも成功した。最近、バルクダイヤモンド中のNV中心の超高分解能蛍光PLスペクトルの報告は、HP研究所(米国)とデルフト大学(オランダ)からなされていたが、ダイヤモンドナノ結晶中のNV中心については初めてのものである。これまでは、ダイヤモンドナノ結晶中のNV中心は、バルク結晶中のそれと比べて、さまざまな外乱にさらされており、コヒーレンスが損なわれ、結果として線幅は広い、と推測されていた。それに対して、観測された1.2GHzという線幅は、バルク結晶中のNV中心のものと殆ど変わらない、という、良い意味で大きく予想を裏切るものであった。今後、この原因を詳しく調べることは非常に重要な課題と考えている。具体的には、発光励起(PLE)スペクトルの取得光学系の構築、ならびに、同一サンプルに対するPL/PLEスペクトル測定などを計画している。また、スピン制御に関しては、単一窒素欠陥中心のODMR実験系の構築ならびに、単一NV中心からのODMR信号の観測にも成功した。今後は、マイクロ波によるスピン状態の制御を目指す。また、デバイスのアセンブリ技術に関しては、ピック&プレイス装置の改良や、ナノファイバを直接加工した新型共振器構造の検討なども進める。引き続き連携研究者である越野准教授とデバイスの最適な検証実験スキームについて議論をすすめる。
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すべて 雑誌論文 (17件) (うち査読あり 17件、 オープンアクセス 6件、 謝辞記載あり 6件) 学会発表 (11件) (うち招待講演 5件) 備考 (1件)
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