研究課題
基盤研究(A)
本年度はまず世界各地の沈み込み帯で発生している深部テクトニック微動の系統的分析のためにデータサーバーを構築し、連続微動震源決定ツールを用いて微動を推定、その統計的性質を調べた。南海、九州、カスカディア、メキシコ、チリ、ニュージーランドの微動活動の概要をまとめ、すでに四国西部で発見していたのと同様な潮汐応答や移動特性、線状配列が同様に存在することを確認した。またその性質は地域ごとの微動の幅で制限されていることも突き止めた。九州やニュージーランドの微動信号は微弱なので、本当に微動信号であることを確認するために深さの詳細決定を行い地下構造と比較した。南海ではこれまで以上に微動の時空間分布を詳細に推定する手法の開発も行った。内陸の低周波地震活動と沈み込み帯の地震活動の統計的な違いを鳥取県西部、大阪湾、桜島の低周波地震活動の分析を通じて議論した。新しい統計学的な解析手法として離散的トリガリングモデルを開発した。これにより微動の連発性を定量化できることがわかった。東北地方太平洋沖地震の発生を受けて、研究計画を一部変更し、この巨大地震の分析に取り組んだ。経験的グリーン関数法による本震震源のすべりモデルを構築し、これを地震後始めての国際会議である4月の米国地震学会において報告した。それをまとめた論文は5月にサイエンス誌に刊行され、この地震の初めてのレビュー論文であったこともあり、その反響は大きかった。この論文では東北地方太平洋沖地震が4つの段階と2つの側面をもつ現象であったことが指摘し、エネルギーの推定結果や、低角正断層地震の存在、動的モデルシミュレーションにより、この地震では過剰すべりが起きたと提唱した。この地震の奇妙な振る舞いは震源領域に存在する階層的不均質モデルで説明することが可能である。そのプロトタイプモデルを既に論文として公表した一方で、さらに正確なモデルの構築に着手した。
2: おおむね順調に進展している
2011年東北地方太平洋沖地震は計画立案時には想定していなかったが、研究計画書に記載した「巨大地震が発生した場合にはそれを研究対象に含める」としてあったまさにその地震であり、今年度はそれを集中して研究することで当初の想定以上に研究が進んだ。一方で夏季の節電やタイの洪水は想定外であり、これにより新型データ解析用サーバーの導入が遅れることになった。差し引きでは当初の計画と同程度の進展状況である。
データ解析用サーバーの整備を継続し、世界の地震データを収集する。それらのデータに連続微動震源決定ツールを適用する。また現在本研究の連続微動震源決定ツールでは微動を同定できていないコスタリカ、アラスカ、アリューシャンについて、その原因を究明する。東北地方太平洋沖地震やチリマウレ地震などの巨大地震の余震活動中に微動が発生している可能性を検討する。南海の微動や日本内陸の低周波地震についての統計的分析も進める。東北地方太平洋沖地震発生地域の地震活動を利用して、なるべく少ないデータを利用して繰り返し地震を同定する手法を開発する。
すべて 2012 2011
すべて 雑誌論文 (9件) (うち査読あり 7件) 学会発表 (27件)
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