研究課題
掘削した250メートルの延岡衝上断層帯に6条の顕著な局所化した箇所が認められるが、その変形組織と物性を比較した。その結果、断層コア、角礫帯、剪断断裂帯、そしてその外の非変形帯と区分できること、それらは間隙率、非抵抗、弾性波速度、などの物性値と対応する共通の特徴を持つことが明らかとなった。また、断層コアにおいては間隙率が下がるにも関わらず非抵抗が下がることなど一般的に考えられている関係とは逆になっていることが明らかとなった。断層変形による組織の変化が関連していると思われる。掘削コアに認められる断裂系を用いて、逆解法によって応力場の解析を行った。その結果、これらの断裂系はいずれも延岡衝上断層の活動によって形成されたものであると推定された。ただし、最大圧縮主応力は延岡衝上断層に対してかなり高角度である。このことは延岡衝上断層が小さな有効強度しか持たない断層であることを示している。境界断層面の摩擦特性を理解するために様々な微小スケールの観察・分析を実施した。延岡衝上断層の断層面のナノスケール構造と化学組成の測定を行った。その結果、光沢を持つ断層面はサブミクロンレベルの平滑さを持ち、ナノ粒子で構成されていることがわかった。またこの断層最表面に炭素が濃集していることが明らかとなった。この結果は断層の動的弱化過程の理解を深めることに貢献できる。延岡衝上断層の断層コアの特性を理解するために含水条件でカオリナイト、セリサイト、サポナイトの粉砕実験を行い、昨年度までの乾式条件での実験と比較した。カオリナイト、セリサイトについては湿式条件では乾式条件に比べて数倍以上の時間を要したが非晶質化したのに対して、サポナイトは湿式条件では長時間粉砕しても非晶質化が進まなかった。粘土鉱物による相違は、摩擦特性などを考える場合に重要ではないかと考えられる。
1: 当初の計画以上に進展している
計画以上に順調に進行している。特に掘削時に実施した検層データとほとんど完全回収に成功した掘削コアの断層岩石資料の比較によって、これまで例をみない断層帯全体の物性の特徴が明らかにすることができた。これまで蓄積してきた延岡衝上断層の露頭での研究と組み合わせることで、断層帯の理解が多いに飛躍させることができたと総括している。特に断層中心部(断層コア)では、母岩を構成する主要構成鉱物であるイライトの結晶化度が下がること、それは摩滅の結果であること、そして全体の構成比の中では量的に増加することが明らかとなった意義は大きい。なぜならイライトの結晶化度は温度との相関があり、断層に沿って発熱すると結晶化度は上がるのではないかと予想されたが、分析の結果は逆であった。また、この結果は、物性の観測において、断層コアにおいては間隙率が下がるにも関わらず非抵抗が下がることなど一般的考えられている関係とは逆になっていることとあわせると断層粉砕摩滅変形後の組織の変化が関連していると思われる。この摩滅粉砕の過程は、局所化した滑り面におけるナノスケール粒子の濃集と炭素の濃集と、これまでの研究から判明している地震滑り時の還元流体の通過と関連したダイナミックな岩石流体反応研究の課題として大変重要である。
平成26年度は、本計画の最終年度である。以下の推進方策をとりまとめる。1. これまでの分析結果に加えて、コア試料の非破壊物性、小スケール試料の物性を加えて、断層の断層帯における断層コア・カタクレーサイト帯・ダメージ帯の位置による変形破壊の実態と違い、それと物性との関連を明らかにする。2.断層試料の分析:本年度は、2-1. 弾性波速度解析試料を対象に、組織解析を行う。カタクレーサイトの粒径分布のフラクタル次元解析およびメランジュファブリックの異方性の定量化などを含むそれらの定量的な組織指標と弾性物性との関係を検討する。2-2. コア全体を通じた鉱物・粘土鉱物組成変化を明らかにし、源岩組成と断層による変形破壊・流体移動に伴う変質、沈殿の影響を評価する。2-3. 断層すべりに伴う、応力場のダイナミックは変化を裂罅系テンソルの発達、特に断層コア、ダメージ帯の過程より明らかにする。2-4. 裂罅系の中の鉱物脈充填のものに注目し、その鉱物に包有される流体包有物分析によって、裂罅形成時の温度圧力条件を明らかにする。2-5. 断層の熱履歴、源岩年代をジルコンのU-Pb年代測定、フッショントラック年代測定により明らかにする。以上を総合して、地震発生分岐断層の断層メカニズムを明らかにする。
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