研究概要 |
巻貝類については,これまでの研究から貝殻腺や外套膜における貝殻の成長勾配を生み出し,規則的な螺旋成長への関与が示唆される遺伝子dpp,およびその上流遺伝子や関連因子と推察されるnodal, engrailed, レチノイン酸等について,発現解析と機能解析を行った.また,dpp遺伝子との関連が予想される遺伝子の探索を行なうため,次世代シーケンサーを用いたEST解析を笠型の貝殻を持つセイヨウカサガイ(Patella vulgata)と螺旋状に貝殻が巻くタケノコモノアガイ(Lymnaea stagnalis)について行なった.その結果,セイヨウカサガイにおいて,貝殻形成への関与が期待されるengrailedとその上流と考えられるレチノイン酸経路の関連遺伝子(レチノイン酸合成酵素cyp26,レチノイン酸分解酵素Aldhla2,Hox2,3,4,5)および,その他の初期発生時の形態形成に重要な数多くの遺伝子(soxB,goosecoid,brachury,pitx)の単離を行なうことができた.また,レチノイン酸経路を詳しく調べるために,セイヨウカサガイの胚をレチノイン酸あるいはレチノイン酸合成酵素阻害剤で処理し,代表的な発生ステージ(胞胚期,原腸胚期,トロコフォア期,ベリジャー期)で胚を固定し,in situハイブリダイゼーション法による遺伝子発現解析を行なった. 二枚貝類については,アコヤガイのゲノム概要配列のアノテーションを行い,本研究計画で機能解析を行うアスペイン遺伝子の他,数多くの貝殻形成関連遺伝子と初期発生の関連遺伝子を同定した.また,本研究の遺伝子機能解析で用いる各種発現プロモータ配列もアコヤガイゲノムにおいて同定した.さらに,実験室内においてアコヤガイの初期発生を行うための親貝,幼生の飼育系を確立した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していた遺伝子組換え体の作出による遺伝子産物の機能解析までは研究を進めることができなかったが,プロモータ配列等を含め,そのために必要な材料をすべて整えることができたから.また,高速シーケンサーを用いた解析により,巻貝類,二枚貝類のそれぞれについて,貝殻形成への関与が疑われる遺伝子群を網羅的に得ることができ,今後の研究の見通しを立てることができたため.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,当初の計画通り,RNA干渉による遺伝子発現の阻害を行うためのコンストラクト(DNA断片)を巻貝,二枚貝それぞれのゲノムに導入し,貝殻形成に関与する遺伝子の機能解析を推進する.また,様々な阻害剤を用いた遺伝子機能解析,発現解析も平行して行い,貝殻形成の機構や遺伝子カスケードを解明したい.アコヤガイについては,動物体だけでなく,外套膜を構成する細胞の培養細胞を用いた実験を開始することも検討している.
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