研究課題/領域番号 |
23244101
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
遠藤 一佳 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (80251411)
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研究分担者 |
棚部 一成 東京大学, 総合研究博物館, 特招研究員 (20108640)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 貝殻形成 / 軟体動物 / 比較ゲノム / バイオミネラリゼーション / 進化発生学 / トランスジェニック生物 / 形態形成 / in vivoタンパク質機能解析 |
研究実績の概要 |
アコヤガイにおいてトランスジェニック系統を作出するために、昨年度に引き続き、アコヤガイあるいはハエのハウスキーピング遺伝子プロモーターとGFPを含むプラスミドのアコヤガイ胚へのエレクトロポレーションの実験を行った。まず、プラスミドなしで、電圧と静電容量の2つのパラメータについて、いくつかの組み合わせを試し、エレクトロポレーションによって胚のおよそ3割が電流によって壊れずに生き残る条件を割り出した。その後、プラスミドを含む溶液中でエレクトロポレーションを行い、プラスミドが胚に導入されたことをPCR法によって確認した。一方で、これらの方法でプラスミドを導入した胚においてGFP遺伝子の発現による蛍光が確認されなかったため、現在別の遺伝子のプロモーターを用いて、実験を行っている。 モノアラガイについては、貝殻基質タンパク質のプロテオーム解析と外套膜のトランスクリプトーム解析を行い、127種の貝殻基質タンパク質を同定した。これらのうち、29種はデータベース検索により既知のタンパク質に同定されたが、残りの98種は新規タンパク質であることを明らかにした。頭足類のオウムガイでも同様に貝殻プロテオーム解析と外套膜のトランスクリプトーム解析を組み合わせた解析を行い、新規タンパク質を発見し、他の貝殻タンパク質とも共通するドメインを同定した。また、モノアラガイの発生初期のいくつかの段階で、発生に重要なシグナル伝達因子であるWntの促進剤と阻害剤による機能解析実験を行った。その結果、ベリジャー期におけるWnt促進剤処理区で、貝殻が正常に立体的に巻かず、平巻きに近い巻きを示す変異体が複数観察された。このことから、Wntが、すでに先行研究で貝殻形成に関与することが示されているシグナル伝達因子のDppとともに、貝殻の巻きのメカニズムに深く関与している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
トランスジェニック軟体動物を作出し、遺伝子産物の機能解析を行うという本研究の大目標が達成されたとはまだ言い難いが、外来遺伝子断片がアコヤガイの胚に導入されたことを示す結果は得ることができた。また、モノアラガイとオウムガイの貝殻タンパク質の網羅解析も行い、貝殻形成の理解のために重要な知見を得ることができた。さらに、Wntの促進により立体巻きが平巻きに変異するという、巻貝の巻きのメカニズムに迫る発見をすることができた。これらの理由から本研究課題はおおむね順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
トランスジェニック軟体動物をルーチンで作出し、貝殻形成その他に関与する遺伝子のin vivo機能解析を行う系を確立するために、引き続き、アコヤガイにおけるエレクトロポレーション、マイクロインジェクション等の遺伝子導入の方法の検討を進めるとともに、バージョンアップされたアコヤガイゲノムデータを用いて、有用なプロモータ配列の検討を進める。また、モノアラガイについても、マイクロインジェクションによる遺伝子導入、毛細管による胚の飼育、CRISPR/Cas9によるノックアウト実験などを行い、貝殻形成に関与する遺伝子群の構造・機能解析を推進する計画である。
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