研究課題
光誘起電荷分離状態(A-D+)において、電荷再結合(A-D+→AD)と競争する電荷シフト過程(たとえばA-D+D→A-DD+)は、天然系や人工系の光電変換初期過程として重要な役割を果たしている。特に、再結合と競争する電荷シフト反応速度の大小は光エネルギー利用効率に深く関わる。しかし、低誘電率(3から4)の有機固体では、対間距離の増大を伴う同種分子間の初期電荷シフト過程は大きな吸熱過程(0.3-0.6eV)となるため、通常の電子移動理論からは再結合速度と比べて3桁から6桁以下の小さな速度しか期待できない。我々は、現在までに芳香族ビニルポリマー固体電荷分離系のフェムト秒ダイナミクスの測定から、非局在化カチオン状態が迅速に生成し、実効的なA--D+間距離の増大によるクーロン引力の低下、再配向エネルギーの軽減が起こり、高速な初期電荷シフト反応が可能となることを明らかにした。本研究では、このような非局在オン状態の生成機構の解明を行い、効率の良い電荷シフトを可能とする分子系の設計指針を提案することを目的とする。この目的の達成のために、芳香族ビニルポリマーや共役高分子系を対象に、新規装置の拡充により時間分解能向上、測定波長域の広帯域化を行い、過渡吸収二色性、近赤外過渡吸収スペクトル測定から、1.イオン状態の非局在化過程の解明、2.非局在化サイズ非局在サイズに関する情報の獲得を計画した。現在までの結果、10-20 fs程度の高時間分解能の達成、近赤外部の観測波長域の2600nmまでの拡大など、測定時間分解能、観測波長域の広帯域化を行った。また、測定信号の時間依存性に現れるビート成分の解析から、非局在化過程に関わる振動成分の獲得にも成功した。また更に、空間分解能の獲得のためにプローブ顕微鏡を導入し、トラップサイトの空間的不均一性の解明への準備も行った。
2: おおむね順調に進展している
光電導体系において光誘起電荷分離に引き続き進行する、電荷シフト反応を支配する因子の解明を目的として、フェムト秒可視紫外-近赤外過渡吸収、過渡二色性等の時間分解測定における観測波長域の拡大、時間分解能の向上といった測定装置の性能向上を行いつつ、芳香族ビニルポリマーや共役高分子系を対象に、研究を展開している。平成23,24年度の研究の結果、10-20 fs程度の高時間分解能の達成、近赤外部の観測波長域の2600nmまでの拡大など、測定時間分解能、観測波長域の広帯域化を行った。また更に、光学顕微鏡下における過渡吸収測定のための光学系の構築も行い、空間分解能として数ミクロン、時間分解能20fs程度の測定も可能となった。また、短時間域の電荷分離状態と長時間(数ミリ秒)における電荷キャリアの位置相関の情報も取得可能な顕微鏡システムの構築にも着手した。これらの装置拡充は、計画通りに進んでおり、一部は当初計画を超えて展開できている。測定結果としては、電子受容体を含む芳香族ビニルポリマーや共役高分子系測定信号の時間依存性に現れるビート成分の解析から、非局在化過程に関わる振動成分の獲得にも成功した。また、有機太陽電池の分子材料として多くの研究がなされているポリチオフェン誘導体などの主鎖に共役系が広がった高分子系に対しても、振動成分と過渡二色性の測定を総合し、カチオン状態の非局在化サイズの時間発展、またそれを支配する揺らぎの解明を目指す。また更に、昨年度に導入したプローブ顕微鏡を用いて試料形態、表面電荷、荷電種の位置特定と以上のフェムト秒計測を組み合わせ、空間-時間測定への応用を行う。
昨年度までに導入した空間位相変調機、近赤外検出器を用いたシステムを充実させ、多種の芳香族ビニルポリマー系についてフェムト秒可視、2.5ミクロンまでの近赤外分光測定を行い、芳香族基の大きさ、その配向、芳香族基間距離、また既に申請者らがピコ秒分光の結果から報告している側鎖間のホール移動速度定数との比較を行い、非局在化サイズとホール移動速度との相関に関する研究を継続する。更に、非局在化サイズ、ホール移動速度定数に対する温度効果(室温から10K)を実験的に明らかにし、温度依存性の観点からもこれらの非局在化を支配する因子に関する情報を取得する。また、有機太陽電池の分子材料として多くの研究がなされているポリチオフェン誘導体(ポリ-3-ヘキシルチオフェン:P3HT)などの主鎖に共役系が広がった高分子系に対しても、同様の測定を継続する。P3HT系は、レジオレギュラリティー(複数並んだモノマーユニットにおいて、側鎖の方向がどれだけ一方向に規則正しく並んで連結しているかを表す指標)の値に大きく依存して物性が異なることが知られている。現在までの研究から、レジオレギュラリティーの異なる化合物系において、近赤外部の吸収に差違が現れることがわかっている。近赤外過渡吸収スペクトルの時間発展に現れることが期待される振動成分と過渡二色性の測定を総合し、ポリチオフェン誘導体等におけるカチオン状態の非局在化サイズの時間発展、またそれを支配する揺らぎの解明を目指す。また更に、昨年度に導入したプローブ顕微鏡を用いて試料形態、表面電荷、荷電種の位置特定と以上のフェムト秒計測を組み合わせ、空間-時間測定への応用を行う。これらの装置開発、研究は、主に、大学院生など(3名)と共同して展開する。以上のデータを総合して、3年間の研究を総括する。
すべて 2013 2012 その他
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
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