研究課題/領域番号 |
23245005
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研究種目 |
基盤研究(A)
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
青木 百合子 九州大学, 総合理工学研究院, 教授 (10211690)
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キーワード | DNA / 塩基配列 / Elongation法 / 電子状態 / 局所状態密度 |
研究概要 |
本課題は、DNAに対し、超効率的にグローバルミニマムな安定構造を決定し、その電子状態を高精度に求めることにより生体内で起こる諸現象を精密に解明し、生体機能をミクロな立場から機能設計できる方法を構築することを目的とする。その意義としては、医学歯学薬学の分野で新規生体材料の開発が求められている昨今においては、DNA・タンパク質・糖鎖などの生体高分子の機能を呈する原点となる電子状態を明らかにすることは、今後の機能性生体材料を設計していく上で重要な情報になるからである。 上記の目標を達成するためには、申請者らがオリジナルに提唱してきたElongation法を方法論的に改良しながら、DNAにおける諸現象に応用するための準備計算上が必要であった。今年度に得られた成果として、信頼性のある計算精度を得るために、DNAのように化学結合を介して密に塩基対がスタックした系に対しても高精度計算が可能となるようOrbital shift法を新たに導入した。テスト系として、まずチオフェン誘導体からなる一次元ワイヤーの末端が、カーボン60とポルフィリンで閉じられている系について適用し、非局在軌道を取り込むことにより精度が改善され、従来法による計算との誤差が2桁以上改良されることを確認した。また、最適構造を効率良く得るための局所的Elongation-optimization法を開発し、いくつかのタンパク質に適用し、DNAでも稼働確認した。電子相関効果の導入に関しては、励起状態計算のためのLocal CI法も導入中である。また、金属がDNAに取り込まれた場合の計算にも対応しうるよう、開殻系および高スピン系のための計算手法の導入も始めた。 一方、協同現象への応用のひとつとして、伝導性の検証のために、DNAのリン酸結合部におけるナトリウムカウンターイオンのエネルギーバンドへの劾果を、さらにA-typeおよびB-typeのグアニン(G)-シトシン(C),アデニン(A)-チミン(T)塩基対の種々の配列の組み合わせのバンドギャップへの効果を系統的に調べた。その結果、GとA残基がHOMOバンドを、NaイオンがLUMOバンドを支配し、GとAおよびカウンターイオンが伝導性の担い手になっていることを局所状態密度解析によって明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の目標は概ね順調に進展しているが、本課題では、応用計算を行なう前に方法論的に改良するべき個所が多々あったために、プログラミングにかなりの時間を割く必要があった。広がった軌道を選択的に取り出すことにより精度が上がるなど当初予定しいなかった部分での成果があった一方で、Elongation法によるテスト計算については、系のサイズが巨大であるためにいきなりDNAを用いることが出来ず、まだタンパク質系への応用に留まっている部分が多いが、DNAの構造最適化は検証中である。別途クラスタ計算による応用としてはA-typeおよびB-typeのグアニン(G)-シトシン(C),アデニン(A)-チミン(T)塩基対の種々の配列の組み合わせに対する計算は比較的円滑に進めることはできた。
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今後の研究の推進方策 |
局所的構造最適化のためのElongation-optimization法プログラムを用いて、来年度は実際のDNAに応用し、さらに複製過程の検証に適用可能かどうかを検証する。一方、協同現象の解明の手段のひとつとして軌道相互作用と機能の関係を明らかにするためにて局所的Through Space/Bond相互作用解析法をElongation法に組み込み、DNAのどの部分が機能発現に影響しているのかを解析するための手法を構築する。既存の手法であるNBO解析との比較により、あるいはそれと組み合わせることによりぐDNAのような巨大系でも大きな基底関数を用いて効率よく解析できる、領域局在化軌道ベースの機能解析手法を発展させる。
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