研究課題/領域番号 |
23245005
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
青木 百合子 九州大学, 総合理工学研究科(研究院), 教授 (10211690)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 量子化学 / DNA / Elongation法 / 電子状態 |
研究概要 |
Elongation法においては各領域に軌道を局在化させることが基本となる。しかしながら、一部広がった軌道が存在し、特定の領域への局在化が困難な軌道である非局在化軌道の存在が、結果の精度を悪くする。そこで本質的に局在化しないいくつかの軌道を自動的に認識して相互作用に取り込むことにより、従来法との全エネルギー誤差が大幅に改善された。 一方、DNA全体の構造最適化法をElongation法に結合するためのElongation-partial-opt法の開発を行った。利点としては、Elongation-partial-opt法の方が、従来の構造最適化法よりエネルギー勾配法における収束が早いことにあり、同じ閾値の下で収束した結果においては、Elongation-partial-opt法による構造の方が安定となる場合が多々あることが明らかとなった。 本方法をHF+LMP2 法のレベルで実行するために、まずElongation-Local MP2法の開発を行った。高分子の両端にドナーやアクセプタなどの色中心セグメントを有する系に応用し、局所的なElongation-Local MP2法の扱いで十分な計算精度で高速に計算できることを証明した。 また、応用例として、DNAのミスマッチ塩基対について適用を行った。B-DNAの一部がA-T対に置き換わる例を取り上げ、そのミスマッチ塩基対形成の過程を周囲の塩基対の影響を含めた形で電子論的な立場から明らかにするための計算を開始した。このような応用に対しては、電子状態理論の枠内に収まらず、よりグローバルなミニマムを見つけることが必要である。よって、動力学的手法とのハイブリッドによるElongation-Dynamics-構造最適化法についての開発も開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Elongation法において、一部広がった非局在化軌道の存在が、結果の精度を悪くしていた問題において、領域の代わりに軌道ベースで活性軌道に組み込む手法を完成させた。そこで特にπ電子非局在化系において、本質的に局在化しないいくつかの軌道を自動的に認識して相互作用に取り込むことにより、従来法との全エネルギー誤差が大幅に改善されたが、DNAに対しては、元々軌道が広がっていないため、それほど必要がないことも確認された。つまり、この方法を利用しなくても、全エネルギーの誤差は10-9au/atomを達成しているため敢えて必要のないものである。しかし、DNA中に金属が混入したり、タンパク質との相互作用において非局在化した軌道が存在する場合には有効になると思われる。 DNA全体の構造最適化法をElongation法に結合するためのElongation-partial-opt法の開発を行った。しかし、構造最適化を応用する過程で、従来法による構造最適化に比べて、10-5au/atomほど安定になる場合が見つかった。その原因を探った結果、Elongation-partial-opt法により得られた最適構造の方が、従来の全系に対する構造最適化より安定構造を与えることが判明した。これは、全系をダイレクトに最適化する従来法に比べて、Elongation-partial-opt法では局所的に安定構造をFIXしながら逐次最適化することによるものと思われ、予想しえなかった利点である。 さらに、本方法に電子相関効果を導入するためのHF+LMP2 法レベルでの開発や、よりグローバルなミニマムを見つけるためのElongation-Dynamics による構造最適化法についての開発も開始し、いくつかのテスト系で良好な結果を得ている。
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今後の研究の推進方策 |
Elongation法を適用する過程において、領域局在化後も依然として非局在化した軌道を活性空間に含める手法は成功しているものの、領域ベースではなく軌道ベースであるがために、従来のAO-cutoff+QFMM法の導入が難しくなり、計算速度が本方法を利用しないときに比べて劣るという別の問題が見出された。これを解決するために、軌道ベースによる活性空間の定義を行う手法にAO-cutoff+QFMM法を組み込むためのプログラミングが必要である。 また、Hartree-Fock法レベルでの構造最適化はすでに稼働しており、従来法に勝る利点を見出しているが、これを種々のDNA配列に適用し、より詳しいベンチマークテストを行う予定である。一方、電子相関効果を含めるためにHF+LMP2 法のレベルでの開発を行っているが、これに電子相関効果を導入することが必要であるため、HF+LMP2-エネルギー勾配法の開発を続ける。 さらに、DNAでは局所的な構造変化のみならずグローバルな構造変化を捉える必要があるため分子動力学法との結合を一部行っているが、これは簡単なテスト高分子系に応用したのみである。本方法をDNAに適用し、その有効性を確認する。今後は、DNA内の一部での反応解析を行うために、局所的な振動解析法の導入が必要である。
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